TYPE OF MOVIE-映画を観る男と女 #7
「マックイーン:モードの反逆児」
を語る男と女
Illustration : TOMIMURACOTA
People / 2019.03.27
同じ映画を観ているのに、男と女で感想が全く違うことがある。印象に残っているシーンも、劇中の曲に対する評価も違う。「TYPE OF MOVIE」では、そんな男と女の感性の違いにフォーカスを当てながら、今注目の映画をご紹介! 第7回目は「マックイーン:モードの反逆児」です。
「マックイーン:モードの反逆児」を
マックイーンといえば“スカル”という男と、
「デヴィッド・ボウイに
“ユニオンジャック”を背負わせた人」という女が鑑賞。
「マックイーン:モードの反逆児」について
「ファッション界の反逆児」と呼ばれ、服作りに命を捧げたアレキサンダー・マックイーン。先鋭的なデザインとセンセーショナルなショーで世界から注目を集め、若干27歳で「ジバンシィ」のデザイナーに抜擢、34歳の時には大英帝国勲章を授与された。しかし、富と名声の絶頂期にいながら、40歳の時に彼は突然自ら命を絶った。本作は、アレキサンダー・マックイーンの光と闇に迫ったエモーショナルなドキュメンタリー映画。
男と女の映画レビュー
Q1.アレキサンダー・マックイーンといえば?
今作を観る前に描いていたイメージを教えて。
男/「スカルのモチーフを使ったハイセンスな服を作っているブランド」というイメージ。マックイーン自身はドクロのプリントから、ちょっと怖い人を想像していました。
女/音楽が好きな身からすると、デヴィッド・ボウイに“ユニオンジャック”を背負わせた人(ボウイのアルバム『アースリング』のジャケットで、ボウイが身につけているユニオンジャックで仕立てられたコートはマックイーンが作りました)というのが一番強い印象です。様々なアーティストから愛された人、イギリスを代表するデザイナー、それだけの大きな存在、という、ちょっとふわっとしていますが、そんなイメージです。
Q2. 「マックイーン:モードの反逆児」を見て
マックイーンが“反逆児”と言われる所以は、どこだと思った?
男/「モードの神童」だったジバンシィに、マックイーンがデザイナーとして就任したことにより、「アレキサンダー マックイーン」の色が濃くで始めたこと。話題性と売り上げでジバンシィに貢献したものの、結果的にマックイーンがジバンシィを「喰った」かたちになったように感じた。
女/彼の作ったショーが何よりも異端で、“反逆児”と言わしめているものだと思います。映像で見る「Voss」のショーにはやはり圧倒されました。
Q3.アレキサンダー・マックイーンという人物、あなたにはどう見えた?
上司、部下、同僚、親友、クラスメイト、父、息子、恋人なら、理想の関係はどれ?
男/好きなこと・新しいことにまっすぐで、子供のような無邪気な心を持ちつつ、目標のためなら手段を選ばない危うさも持った、不思議な人物のように見えました。ショーの前日にデザインを変更したり、ショーの途中で起きた火事を演出として使ってしまったり、狂気に感じるような言動も「やりたいことをやりたいようにやる」マックイーンだから。納得はできないけど理解はできてしまう。友人や同僚にこんな人がいたら良い刺激を受けるかも。
女/映画の冒頭で「誰にどう思われようと、自分自身にどう思われようと関係ない」(実際のセリフ通りではないと思います)と言っていたのが印象的で、“自分自身にどう思われようと関係ない”というのは、人間味の薄れた言葉だな…と感じたのですが、その後描かれる彼はムードメイカーであり、他人への愛に溢れた人であり、一方でとてもセンシティブな人で、冷たくもあり…。「こういう人」と括りができないことが、彼の中で色んなものの境界が曖昧で、美しさが醜さだったり、醜さが正しさだったりする表現にも表れているのではと思いました。
理想の関係…。この中ならクラスメイトという一番遠い関係がいいです。ものすごく強いパワーで人を惹きつける人だと思うので、彼のテリトリーに入らず見つめていたいです。
Q4.「ココを見て!」というポイントを教えて?
男/「ココ」というシーンというよりは、全体を通してマックイーンの心境の変化や葛藤、周りの環境、そしてそれがショーやデザインにどう影響していったのかを見て欲しいです。
女/関係者が証言するシーンの絵画のような美しさと、その証言の丁寧さ。その撮り方に製作者の美学を感じて惚れ惚れしました。
Q5.「マックイーン:モードの反逆児」に、あなたなりのキャッチコピーをつけるなら?
男/「天才が生きた、変遷と恒常の生涯」
「アレキサンダー・マックイーン」を立ち上げてから自ら命を絶ってしまうまで、彼に起った心境の変化や環境の変化が、彼のショーと彼自身にどんな影響を与えたのか、そしてその中でも彼の中にある変わらない芯のようなものを感じてもらいたいから。
女/「誰も知らない“カタチ”の人」
マックイーンが作るドレス、そしてショーの“カタチ”の独創性、そして彼自身、多面的な人物で、型にはまらない人だと思ったので。
そして、3人目(男)のレビュー
マックイーンの美学と映画制作クルーの美学。
アレキサンダー・マックイーンが亡くなった翌シーズンの2011年春夏コレクション、業界関係者の同ブランドに対する評価は厳しい言葉が多かったように記憶している。「マックイーン:モードの反逆児」を見た後、改めて当時のことを思い返してみたが、その事実はやむを得ないことだったかのように感じた。今作を鑑賞した男と女も言っているように、マックイーンは“異端”であり“芯”がある。ゆえに、彼が手がけたコレクションは、個の才能から創造される唯一無二なものになり、その美学は簡単に後継できるものではない。今作を構成する要素である、過去のコレクション映像、関係者へのインタビュー、そして彼自身の言葉から、彼が「ファッション界の反逆児」と呼ばれ、数々の賞賛を浴びてきた所以が理解できるはずだ。
また、その生涯から「マックイーンの美学」を追いかけた男の視点、映像から「制作者の美学」も感じた女の視点、この2つの視点が今作品の最大の魅力だ。マックイーンの友人でもあった作曲家のマイケル・ナイマンによる音楽に乗せて流れる映像によって、これまでのドキュメンタリー映画とは一味違う仕上がりになっている。美しく壮大、マックイーンの美学に惚れ込んだ制作陣だからこそ、きっとそのような世界観を描き出すことができたのだろう。ファッション好きな人、アレキサンダー・マックイーンの世界観が好きな人、アートに興味がある人たちに見てもらいたい。そして、鑑賞後にその2つの「美学」について熱く語り合ってみてはどうだろう。
【作品情報】
マックイーン:モードの反逆児
公開:4月5日(金) 全国ロードショー
監督・脚本:ピーター・エテッドギー
監督・制作:イアン・ボノート
音楽:マイケル・ナイマン
出演:リー・アレキサンダー・マックイーン、イザベラ・ブロウ、トム・フォードほか
配給:キノフィルムズ
劇場:オフィシャルサイトで要確認。
© Salon Galahad Ltd 2018
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