Banana Blue Berry Muffin.

Contributed by anna magazine

People / 2017.11.15



待ち合わせ場所には、いつも思った以上に早く着いてしまう。誰かを待たせて慌てるより、ゆっくりとこれからの時間を想像する方が楽しいからかもしれない。あの時、待ち合わせをしたのは確か渋谷のモヤイ像だったけれど、案の定30分も早く着いてしまった。通りすがりの人々を観察しながら、思考を巡らせる。目の前には渋谷という大都会があるのに、想像するのはアメリカのことばかり。「あ〜あ、渋谷からの直行便ないのかなあ」とため息をつくと、同じくため息をつく隣のおじさんに気がついた。さっきまで、全然彼のことが見えてなかったのだけど、突然距離感が縮まった。「あの〜」と、なんとなく暇つぶしで話かけてみると、彼はニューヨークから帰ってきたばかり。わー、すごい。えー、でもため息!? 持ち前の図々しさでどんどん深堀りすると、彼は星に魅了されて世界を旅していたということが判明。まだまだ名前のない星が存在する大きな宇宙を見ながら、彼は数々の星に名前を付けてきた。でも、大好きな奥さんと旅をしている途中、見たことのない星を見つけて興奮した彼は、彼女を残して星探しへ。それ以来、20年ぶり。渋谷で待ってるね、と連絡をして、もう3時間もここに座っている。

「やっぱり来ないか、しょうがないですね」と、もう一度ため息をつく彼は、よく見ると素敵なスーツを着ていた。「ブルックスブラザーズの洋服が好きなんです。これを着ると立派な気分になれて…」

それから5年後、私は初めてのニューヨークに降り立った。正直、西海岸好きな私にとってニューヨークはあんまり興味のある街ではないけれど、マンハッタンから車で3時間ほどのサーフタウン、モントークには強烈な憧れがあった。ロングアイランド鉄道の終点、そして東海岸のサーファーが愛してやまない場所。モントークにはロマンがある! ああ、ロマン。この時にふと、彼の見てきた星空とリンクした。あの時、たまたま手にしていたマフィンを彼にあげたのだけど、モントークに行く途中、もっと美味しいマフィンがあるのを発見した。ザクザクッ、ふわん。まるでアメリカ人みたいにざっくばらんなマフィンは、毎朝食べたい! と思えるほど好きになった。西海岸派だったけど、このマフィンを食べれるならNYに住んでもいいな。苦いコーヒーもウェルカムだ! ねえ、3時間あるなら、マンハッタンから飛び出してモントークで美味しいマフィンを食べよう。NYも意外と広いよ。いつか彼にあったら、そう言ってみよう。

Kan Akemi
編集・ライター。出版社での雑誌編集を経て独立。旅を中心に、サーフィンやアウトドアのフィールドでも活動。好きなものはカリフォルニアと海。anna magazine創刊から、コントリビューティング・エディターとして携わる。

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