アンティークのぬいぐるみ

Just One Thing #43

アンティークのぬいぐるみ

ニャロメ(花屋『Jedi』店主)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2023.11.09

街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#43


その花屋は、一風変わっている。色とりどりの花やアンティークの花器に混じって、ぬいぐるみやおもちゃがこちらを向いているからだ。祐天寺駅から少し歩いた閑静な住宅街。こじんまりとしたギャラリースペースに間借りする形で出店している花屋、店の名前は『Jedi』という。

「私の部屋もこんな感じなんですよ(笑)両親もすごいおもちゃとかかわいいものが好きで、この中にちょこちょこお父さんのものもあります。子どもの頃からアメリカントイに囲まれて育ってきて、自分で花屋をやろうと思った時にいくつか借りてきました」

『Jedi』の店主、ニャロメは語る。何個も持っているお気に入りブランド『Goofy Creation(現『Comfortable Reason』)のキャップにスウェット、デニム。グラフィックに惹かれて服を買うことが多いというだけあって、モノ選びはポップでカジュアルなものが好きらしい。それは、彼女の店に並んでいるおもちゃやぬいぐるみともどこか近いものがある。



「好きな物は、ちっちゃい頃から同じです。かわいいと思ったものは集めちゃう。子どもの頃はお小遣いもそれほどなかったからキャラ物がついているボールペンとか、シールとかメモ帳とか……。今は当時買えなかったような物にも手が伸びちゃいますね(笑)あと、指輪とかもよく買います」

雑貨好きだった両親は勿論のこと、周囲の友人にもおもちゃを扱う店や好きな服を扱うショップを営む人が多いという。

「これまでの人生で集めてきた物たちが私そのもので、このお店も、そのまま『私』だと思います」

そんな彼女の分身ともいえるおもちゃの中で、特に一番の思い入れがあるのはどれだろう。

「ミーシャですね! かわいいから、好き。ここには3体いるんですけど、本当は家にもっといます。全員、同じ型なんです(笑)同じものを集めてしまうんです。見つけたらつい買っちゃう」

ミーシャは、モスクワオリンピックのオフィシャルキャラクターだ。愛らしい大きな目がユーモラスな表情で見つめる姿は、未だに多くのファンを抱えている。一番最初に出会ったミーシャは父親のコレクションの一つ。幼い頃から慣れ親しんできた存在だ。





おもちゃたちと一緒に並ぶ花たちも、やはり彼女自身がずっと好きだったものだ。元々は医療関係の仕事についていた彼女が花屋を志したのは、意外にも偶然の重なりだったという。

「医療の仕事を辞めたときにカフェでアルバイトをしてて、よく近所のお花屋さんがお客さんとしていらしてました。オーナーが2人いてセレクトショップと花屋が同じ空間にあるお店でセレクトショップにある雑貨やアパレルもすごく可愛いんです」

次の仕事を何にしようか考えているタイミングで思いもよらない出会いだった。そこからはそのお店で働き、声をかけてくれた人に師事することになる。

「一旦花の営業をお休みするタイミングで私もお店を辞めたのですが、他にやりたいことが見つからなくて……。そのお店ではかなり自由に花と関わらせてくれていたので、他の花屋で働くという考えも浮かびませんでした」

花に対して自由に、好きであること。それは今の『Jedi』にもそのまま反映されている。

「どういうお店にしたいとかはないし、『花屋を通して何かを伝えたい』とかは思ってなくて、花についての話を友だちや市場の人たちとしている感覚そのままなんですよね。『あの花咲かなかったね』とか、『この花かわいいよね』とか、そんな感じ」

コンセプトやストーリーを最初から決めるのではなくて、一個人として好きな物に正直に向き合うこと。それ自体がこのスタイルを創り出している。

「元々、花屋になる前から部屋に花を飾っていました。お水をあげたり、日がたって花瓶が濁ってきたり、朝起きたら花びらが落ちて花瓶の周りに散らばっていたり、思ったより早く枯れてしまったり……。そういう様子を見て『生きているんだな』って実感するというか、うまく言葉にはできないけど、日々感じることがあって」

部屋の中に一緒にいる、かわいらしくて、生きている存在。そんな花の姿をそのままお店に持ってきているのが『Jedi』といっていい。こうしたお店をやるのは、もちろん彼女にとって必然でもあったが、周囲の人たちからの影響なしには語れない。



「年始、何もしないでゴロゴロしてたんですけど、以前から仲良くしてくださっている『BARBER SAKOTA』の迫田さんから『暇ならイベント手伝って』と連絡があって。 久しぶりに色んな人と会って話して、人と好きなものを共有できるってやっぱり楽しいなと思えました。 そんなことをイベントの帰りに迫田さんと話してるときに『花屋やったら?』と言ってくださって。このスペースも紹介してくれたんです」

下高井戸にある『BARBER SAKOTA』。所謂、「街の床屋」としての在り方を守りつつも、かわいらしいキャラクターをあしらったグッズやアパレルブランドのポップアップ、カルチャー関係のイベント等を行うカルチャ―ハブでもある。

「『好き』を貫いてる人に惹かれます。迫田さんも、ああいう形の床屋さんって衝撃的で。私が好きなトイショップもそこでポップアップをしていたんです。誤解を恐れずに言えば、仕事しながら遊んでいるような感じが好きでした。たとえば、おもちゃとか、アクセサリーとか私が好きで通っているお店の店主もみんなそうなんです。好きな物があって、それを共有したいから売ってる。儲かる儲からないとか、流行ってるかどうかとかは一旦度外視して自分に嘘がない人が多いなって」

好きな物に対して自由で嘘がなくあること、そのことはこれまでのニャロメ自身が続けてきたことでもあり、周囲の人たちと共鳴してきたことでもある。その原点こそが、今も棚で微笑みかけているミーシャだった。



「うちの親はインスタとかない時代の人だから、どんなレアなおもちゃを買っても家のキャビネットに入れて、眺めてるだけなんですよ(笑)完全な『自己満』です。見せるとか自慢とかじゃなくて、好きだからやってるってこと。たとえば、Instagramで流行っているからって、興味がない物をのせるのは違和感があったんです。逆に、ただの自己満でも、好きな物がただ生活の中にあることだけですごく豊かだし、好きなお店の店主が話しているのを見ていて楽しそうだなって思います」

好きな物と正直に、自分なりの向き合い方をすること。それがごく当たり前に幼い頃からできていたニャロメの周囲には、今もそういう仲間が集まってくるのかもしれない。



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ニャロメ(花屋『Jedi』店主)
神奈川県出身。2023年2月より独立。現在は祐天寺にあるスペース『Orange Parlor』に間借りする形で自らの店『Jedi』を営んでいる。幼い頃からアメリカントイが大好きで、現在も収集癖は健在。お気に入りのショップは下北沢の『sounds good』、幡ヶ谷の『russet burbank』、静岡の『STORY』など。

Instagram:@jedi_flowerservice


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