『UNIQLO U』のデニム

Just One Thing #29

『UNIQLO U』のデニム

Chika Hasebe(編集アシスタント)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2023.04.06

 街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#28


「ファストファッションブランドだから躊躇なく洗えるなぁ、と(笑)あとは、形もすごく気に入ってます。腰周りは割とピタッとめで、下に向かってゆとりがあるからストン、と落ちる感じ。何に合わせても合うので、ずっと履いていますね」

お気に入りのデニムを履いて、仕事終わりに自転車で来てくれたのは、編集アシスタントのChika Hasebe(ハセベチカ、以下チカ)。とある都内の出版社でカルチャーメディアの編集部に身を置きながら、多忙な日々を送る。その傍ら、ライターやアートブックショップの店員など、本人の言葉を借りれば「何足かのわらじ」を履いている。学生時代にアイルランドのダブリンへ留学を経験し、5月にはロンドンでのワーキングホリデーへ旅立つとか。



最近引っ越したばかりだという新居から、ほど近くの場所ということで、デニムにスウェットパーカーというラフな装いだった。荷物やパッカブルのダウンジャケットを自転車のハンドルに吊るしている様子がやけに手馴れている。この日履いていた『UNIQLO U』のデニムは、6年前「そういえばデニムを持っていないな」程度の感覚で買ってから、不思議と長く履いている一本だ。

「本当はもう、だいぶ前から買い替えたいと思ってるんですけど、同じシルエットが出ないからずっと履いてます(笑)毎年アップデートされていく、UNIQLOさんの企業努力のせいで、お気に入りが手に入らないという…」

よく見たら、ところどころ色落ちしていて、いい感じに「育って」きている。UNIQLOのデニムを風合いが出るまで履く人はあまりいないかもしれない。いざ6年モノを目の前にすると、褪色にクセがなくて、クリーンな印象のまま履けるから、他の服とも非常に合わせやすい。

「私の場合、服が好きだけどブランドとかコレクションとかはあまり興味がないんです。街を歩いている人の組み合わせとか、なんでこの人こういう服着ているんだろうとか、そっちに関心が向いてます」





その言葉を裏付けるように、チカのモノ選びはバラエティに富んでいる。UNIQLOのものもあれば古着屋でたまたま見つけたもの、それから旅先で見つけたものまで。そんな入れ替わりの激しいクローゼットでも、他の服たちと長年に渡り仲良くしてきたのがこの一本だ。次はどんな組み合わせにしようか、って楽しそうに服を選ぶ姿が目に浮かぶ。

それは、旅先でも同じこと。数ある中から選びぬいた数着をカバンに詰めて持っていく。

「留学先とか、海外へ旅に出たときとか、私は寒がりなのでダウンとかフリースのプルオーバーとかは必須で。ダブリンにいたときもよくその組み合わせをしてましたね」

旅先へもっていく服というのは、案外選ぶのが難しい。慣れない土地の気候はなかなか想像がつかないものだし、もっといえばその土地で着たくなるファッションというのは実際に生活してみないとわからない。景色、匂い、人とのかかわり方、そういうものを経て、その街に対しての捉え方が「着たい服」に繋がってくる。だからこそ、世界中どんな街で履いていても違和感がなく、気候にもある程度融通が利くデニムは旅のトランクには欠かせない。

「大学へ入ったとき、2年次に留学するのは決めてたんですけど、その時にダブリンかアメリカのシアトルか2つ選択肢がありました。シアトルの大学は日本でも結構有名で大きな大学でした。マンモス校って日本人ばっかりで日本語喋っちゃうよなぁ…と。高校生のとき、初めての短期海外研修で英語が話せなくて悔しい思いをしたんですけど、せっかくだから日本人がいない環境で英語に集中したいと思ってたんです。ダブリンなら、行ったこともなかったし、あまり話にも出なかったから丁度いいんじゃないかなと思って」



あまり聞いたことがない、見ず知らずの街へ飛び込む。そういう選択肢を真っ先にとるところが、今のチカにも通じているように感じる。

「親が割と、厳しい家というか、きっちり、しっかりやらないとって教わってきたんです。そういう中で高校の時にアメリカへ渡ったときに現地の授業とか生活に触れる中で『あっ、もっと自由でいいんだ』って思えた体験でした。今までにない新しい価値観に触れることができたときに、漠然とだけど海外へ興味が向いて」

チカの好奇心や未知なるものへの探求心は、「これまでになかった価値観」を知るということにベクトルが向いている。街の人が、着ているものであったり、知らない街の暮らしであったり、生まれ育った環境とはかけ離れた海外の価値観であったり…。



留学から戻り、大学生活を経て、社会に出たチカ。それでも、彼女は再び外に出ることを決めた。

「働きながら自分がやりたかったことを学校に行かずに学べたらいいと思って、ロンドンのワーホリに応募しました。海外の大学にいたら、途中からメジャー(専攻)を変える人が結構いるんですよね。『やっぱり、これを勉強しよう』みたいな。で、私も大学で学びたいことが途中で変わっちゃったんですけど、親からは4年で卒業するようにいわれていて、編入の選択肢はなかったので…。いっそ卒業してから留学しようと思っていたら、コロナ禍でいつ行けるようになるかもわからないので就職しました。働いているうちに、このままいったら思っていた方向と違う人生になっちゃうかもっていう不安が出てきてしまったんです。とはいえ、コロナ禍が明けても留学するお金は貯められなかった中で、丁度ワーホリ制度の存在を知って」

何を学びたいかはきっと彼女のことだから、現地にいるうちに変わっていくかもしれないし、その好奇心がキャンパスの中に収まらなくなるかもしれない。そういう意味では、留学では触れられない生活や仕事に対する考え方、根深い文化に触れられるワーキングホリデーはチカにぴったりだ。



刺激が欲しい、変化が欲しい、と考えるのは、必ずしも全ての人に当てはまらない。ただ、チカは間違いなくそれを楽しめる人で、まだ見たことがない、知らない場所に感じるワクワクへどこまでも素直でいられる。

そういえば、チカの自分が着るものに対するこだわりは、「一度着たことがある組み合わせを着ないこと」らしい。自分に似合うもの、今着たいもの、それは常に変化しているからこそ、彼女にとってはごく自然なことなんだ。

そんな変化を求める毎日で、6年以上も履き続けているデニムは、やっぱりそれ相応に色褪せて、表情を変えていた。彼女と共に旅をして、共に変わっていくデニム。それはまるで、単なるファッションアイテムを超えた相棒のようなものなのかもしれない。チカがロンドンから帰ってきたとき、もっと明るい色になっているはずだ。その時は、どんな履き方をしているんだろう。数年後、また会うとき、ふと思い出しそうだ。


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Chika Hasebe(編集アシスタント)
神奈川県出身。編集アシスタントとして働く傍ら、ライターやアートブックショップのスタッフとしての顔も持ち「何足かのわらじ」を履きこなす。『Container』でも自身の連載『No Sleep Ever』でNYの街で見聞きし、感じたことを綴ったフォトエッセイを更新中。2023年5月、ワーキングホリデー制度を利用し、ロンドンへと旅立つ。
Instagram:@chika__chika__

Container連載『No Sleep Ever』はこちらから


 

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