ビールでいいや。

えもーしょん 大人篇 #7

ビールでいいや。

2016~/カイト・大人

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.01.21

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#7
「ビールでいいや」
(2016~/カイト・大人)

ヒーローが悲しい声で

そう言った。

その言葉で、ボクの中の何か確かに

切れた。

ボクが、思い描いていた

プロサーファーは、現実的ではない事に

気づいてしまった。

辞めるなら、今だ。

そう、思い

ボクは、プロサーファーになる事を辞めた。

それと同時に

今までの、夢と

周りの人や家族の期待と応援を

見事に裏切った。

初めて、ボクの自己中が役に立った瞬間だ

そのお陰か

罪悪感がそれほどなかった。

多分、小学校6年生頃から

「ボクには、向いていない」と

心のどこかで、感じていたからだ。

けれど、怖かった。

学校へも行かず、サーフィンをする毎日の

代償は大きい。

学校に居場所がない事と
他にやる事がわからない。という
逃げ場がない事。

友達は、サーファーだけ

話が通じるのも、サーファーだけ

それに、ボクたち家族を唯一繋いでいたのも

サーフィンだったのかもしれない。

ボクが、サーフィンをして

プロになるという夢がある事によって

家族全員が、1つの方向を向いていたからだ。

実際、朝ごはんから夜ご飯までの

父との会話は、サーフィンの話しか記憶にない。

それ程、これまでボクはサーフィンだった。

これから先、どうしようか。

そんな事を考え

頭がおかしくなりそうだった。

いや、ついには

おかしくなった。

ある日、いつものように

お葬式プレイのように

沈黙の晩御飯を家族で食べていた。

突然

「ボク、進学する」と

自分でもびっくりするような言葉を

父と母に告げた

父は、見たこともない

びっくりと、怒りと、喜びと、悲しさ

まさに、喜怒哀楽をいっぺんに

表現した顔をした。

母は、薄々気づいていたのか

少し、ホッとした顔をしていた。

少しの間、2人は一点を見つめ

固まり

誰か、喋ってくれ!と

言わんばかりの空気が流れていた。

すると

母「どこの学校へ行くの? もう、受験は終わっているでしょう」

ボク「〜専門学校へ行く。この前ちゃっかり面接してお金払えば入れるって」

父「何を勉強するの」

ボク「インテリア学科に入る」

母「美術じゃないの?」

ボク「うん、色々考えて…絵は師匠がいるし」

母「わかった、自分でしっかり考えたのね」

と、突然席を立ち

部屋に向かった。

うわぁ、めっちゃ気まずい…

「怒ってるなぁ…」

と、必死にご飯を食べることだけに

夢中になっていると

母が戻って来て言った。

母「ポストに入っていた、パンフレット。
勝手に見たの、入学金と〜学園は入学金一年分前払いなのね。」

ボク「うん、そう」

父「お金はどうするの?」

母「奨学金の受付も終わっているんじゃない?」

ボク「そう、だからそれを相談しようと…」

母「まったく、もう振り込んでおいたよ」

ボク「へ!?」

母「頑張ってね」

母と父はボクが密かに取り寄せたと

思っていた

パンフレットの存在も

勝手に面接を受けていた事も

高校の学年主任と、裏で

情報交換していたようで、すべて知っていて

入学金と、1年分の授業料を払ってくれた。

ボクは、「これはもう絶対に裏切らない!!!」

と、心に決め2人に最大の感謝を伝え

入学式までの1ヶ月を謳歌した。

続く


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