シャツのボタンが秋を告げるのだ

えもーしょん 高校生篇 #26

シャツのボタンが秋を告げるのだ

2013〜2016/カイト・高校生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.05.04

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#26
「シャツのボタンが秋を告げるのだ」
(2013〜2016/カイト・高校生)

学校の窓から眺める空が

突然、暗くなって

大雨が降り出した。

「帰りめんどくさいなぁ」

そんなこと考えて

なにを話しているのかわからない

数学の授業を聞いていた。

「かいと〜わかるか〜」

と、先生が少し心配して

やってくる。

もちろん、全然わからない。

「全然、なんで数学なのに英語の勉強するんですか?」

「あ、X?」

「Xである意味がわかりません」

「先生も、わかりません」

「特に、あれ。ボクにはVANSにしか見えません」



「あ、あれね。ルートって言うんだよ」

と、くだらない話をしていると

大雨が止んだ。

呆れた先生は、少し嬉しそうに

黒板の方へ戻っていった。

この、授業が終わったら帰ろう。

雨がまた、降るかもしれないし。

チャイムが鳴って

みんなが、次の授業へ向かう準備をしている。

これが、妙に好きになれない。

反骨心から、早退するのかもしれない。

まぁ、だいたいそうか。

早退届を出して

「またいつか」

先生にそう言った。

振られた少年のような顔をする先生。

なんだか、かわいい。

靴に履き替えて、バイクを取りに

濡れた、アスファルトを歩く。

雨に濡れた、街路樹の匂いに

街路樹の下の土の匂い。

本来なら、そうだよね。

この匂いが、本当なら

正解なんだよね。

でも、アスファルトの匂いも

嫌いじゃないんだ。

って、ポエムを口ずさむ。

空には虹が出ているけど

それよりも、すっかり秋の空になっている。

青い空、大きな入道雲。

鬱陶しいのに、愛おしい、セミの声。

みんなが、夢中のワールドカップも

台風に、さらわれた。

また、やって来ると分かっているから

余計に、寂しくなるのだ。

夏。

ボクは、もう

ビーサンから、靴下を履いて

ローファーなんて履いている。

海パンから、スラックスを履いて

Tシャツから、ワイシャツをしている。

さらには、ボタンを全部閉めて

ネクタイまで、している。

すっかり、秋なのだ。

ワイシャツの、ボタンを1つ

また、1つと閉めて行くたび

1番上のボタンを閉めて

暑苦しいと、思わない時。

それが、秋なのだ。

「なんだよ、もう」

ポケットから、バイクの鍵を出す。

びしょびしょに濡れた、ヘルメット。

ひっくり返して、ゆっくりかぶる。

「頼むよ〜〜お願いだよ〜」

と、愛車のモペットに思いを伝えて

ペダルを逆回転。

微かな、エンジンの音に

絶妙なタイミングで

アクセルを回す。

ボクらは、今日も

波長が合うみたいだ。


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