夢と夢

Emotion 第36話

夢と夢

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.09.08

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第36話

カイトがボードを持ってこちらに向かって来る。よく見るとウエットスーツを着ている。なるほど、これは長期戦になりそうだ。隣でタバコを吸っていた男性は気がつくと吸い殻を砂に立てて居なくなっていた。おっさんの唇なんか感じたくないのに…と吸い殻をニューサマーオレンジの皮に包みゴミ袋に入れる。

カイト「お待たせ」

僕「全然」

カイト「誰と話してたの?」

僕「話してないよ」

カイト「そうか、上から見てたら話してるように見えたよ」

僕「ウエットスーツ借りて来たの?」

カイト「そう、お腹が擦れるんだよ」

僕「なるほど」

カイト「どこでやる?」

僕「左に行ってみようか」

カイト「誰もいないよ?」

僕「じゃぁ、右?」

カイト「あっちは人多いからなぁ…」

カイト「オワリはどこが良いと思う?」

僕「左だな」

カイト「左に行こう」

カイトがボードのノーズを持って僕がテールを持ち2人で海の左側へ向かった。入る前に少しストレッチをしていると、やはり右側でサーフィンをしてる人達の視線を感じる。カイトがボードを海に浮かべいくつか波を超えると、空を見たサーファーが1人こちらへやって来る。タバコをポイ捨てした男だ、なんてやつだ。やっぱり自分を信じず誰かが失敗するかどうか見て判断して結局自分は楽をするのか、ハイエナか。

負けていられない。ハイエナ男よりもカイトに良い波を乗せることが今の僕の使命だ。ハイエナ男よりも奥で待ち、ハイエナ男の羨ましそうな視線を感じながらカイトを大きなうねりに乗せた。

浅瀬まで長く乗ったカイトは、自力で沖までパドルをして来た。彼がゆっくり沖へやって来たからまた次の波がすぐ後ろに現れる。再び、乗せる準備をしていると彼は「どうぞ」と言った。驚いて彼の視線の先を見るとニコリと笑ったハイエナ男がいた。

僕の心はどれだけ醜いのだろうか。どうしてこんなに敵として見てしまっていたのだろうか。どうしてこんなにもムキになってしまったのだろうか。はじまりは、海を見てサーフィンをしている人を羨ましく思ったことだろうか。だとしたら自分は最低だな。と思った。

カイトが譲った波を乗った男は満足した表情でこちらにやって来た。

男「タバコ、ごめんね」

僕「いえ、大丈夫ですよ」

波に乗ったら人は素直になるのだろうか。と思った。だとしたら僕も今すぐ乗りたい。


続く



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