This Must Be the Place

MY FAVORITE MOVIE #6

This Must Be the Place

Contributed by MFM CULB

People / 2023.06.21

「映画を」楽しむ、じゃなくて「映画と」楽しみたい。別に映画に詳しくなくたってお気に入りの1本があったらそれでいいじゃん。「僕」と「誰か」が繋がって語られる、映画との日常。

久しぶりに“僕”が戻ってきた気がした。
最近悩まされていた心のモヤモヤが流れていくように、じわっと涙が流れた。感情が動いて涙するのは久しぶりだと思う。一曲が今日の景色を変え、また過去のあたたかい記憶が戻る瞬間。おかえり、本来の僕。

NOW SHOWING
【アメリカン・ユートピア】





平日の朝。
いつも通り目を覚まし「うぅ」と唸り、仕方なくベッドから出る。
そして、寝ぼけながらお湯を沸かす。
その間、多めに歯磨き粉を出して歯を磨き、レコードをセット。
お湯が沸いたらとりあえずコーヒーを淹れてスタートするのが僕の定番だ。

最近、蒸し暑くなってきたから
僕の大好きな熱々のホットコーヒーではなく、アイスコーヒーを淹れることにした。
(ホットが好きなのは元々だけど、“熱々”にこだわりはじめたのはもちろん『ツイン・ピークス』クーパーの影響)

朝かけるレコードは、いつもやや寝ぼけた状態で一枚選定するんだけど、今日はTalking Headsの曲が聴きたいなぁと、ふと思う。時間に少し余裕があったから2枚組の「The Name Of This Band Is Talking Heads」をかけることにした。久しぶりに聴く彼らの音楽はやっぱり独特だな、なんて思いながらちょこちょこ流れるお気に入りの曲にテンションも上がって、いい一日のスタート。



引き続きTalking Heads気分の僕は通勤中も聴くことにして、彼ら曲の中で一番大好きな曲「This Must Be the Place」をかける。僕は同タイトル、ショーン・ペン主演の映画『This Must Be the Place』も好きだし、彼らのライブ映画『ストップ・メイキング・センス』の中で演奏される「This Must Be the Place」も好き。初めて『ストップ・メイキング・センス』を観て、この曲を聴き、歌詞を見た時、胸が締め付けられるほど幸せな気持ちで満ちた感覚になったのを今でも鮮明に覚えている。この映画は彼らのことを知って間もない頃に観たから、シンプルなようで独創的な不思議すぎるパフォーマンスには正直驚いたけど、何より大好きな一曲と出会えた映画だから、僕にとっては思い出の一本だ。

電車の待ち時間、「This Must Be the Place」のイントロだけで目頭が熱くなり、急に涙がじわじわ溢れてきて、突然のことに驚いた。

最近は少しモヤモヤが続いていて大好きな映画も身に入らず、音楽を聴いてみても、アート作品を見てみても、何に対しても感情的にならなかった。人によってはそれが「落ち着いている」 「冷静でいられている」になるかもしれない。でもそれは、僕にとって『からっぽの状態で“悲しいこと”』でしかなかった。

僕が望んでいた僕自身が帰ってきたタイミングはあまりにも突然で、ついには何かに揺さぶられて涙が出ていることにまで嬉しくなって泣き笑い状態に。

やっぱりタイミングって不思議だね。
なるようになるってこういうことなのかも。

そして思い出したのは、「This Must Be the Place」をたくさん聴いた2021年5月のこと。



『アメリカン・ユートピア』
この作品は当時、とっても話題になったし僕自身もかなり盛り上がっていた。だって大好きなデイヴィッド・バーンのブロードウェイショーを映画として観られるのだから。しかもスパイク・リー監督で!!

“ユートピア”この題がつくように、まさに理想郷な世界観の中で語りかけられる言葉はどれも強烈で優しく、価値のあるものだった。ここには可視化できるパワーとエネルギーが存在して、理想郷が理想ではないと思わせてくれる力がある。そんな作品に、もちろん僕も夢中になった。何度観ても変わらない素晴らしさが、ここには存在すると断言できるほど。

今朝、体験しただけでなく、鑑賞した時にも感じたのは「This Must Be the Place」という曲には、自分が思っている以上の影響力があるということ。この時、すでに涙いっぱい、ボロボロの状態で映画館を後にした僕だったが、この後も涙が止まらなかったのだ。満ちた気持ちでいっぱいになって、ご機嫌な帰り道。すぐにサントラをダウンロードしてアメリカン・ユートピアver.の「This Must Be the Place」を聴く。そうするとたくさん泣いて満足したはずの目から、また涙が溢れ出た。

人は予想以上に心動いている瞬間があって、予想以上に傷ついたり疲れている瞬間がある。
その両方に気付いてあげられたらいいんだけど、それは意識していても難しい。
気付かぬうちにも、喜んだり、悲しんだりしている。
だからこそ、無意識でも自分の気持ちに気付いてあげられた時、たくさん抱きしめてあげなければいけない。
そうすればまた戻って来られる。僕の帰るべき場所に。

この曲はデイヴィット・バーンがはじめて作ったラブソング。僕にとってこの曲は大切なパートナーを想うラブソングであることはもちろん、僕自身を安心させるラブソングにもなっていることに気付いた。

Home is where I want to be
But I guess I’m already there
I come home she lifted up her wings
I guess that this must be the place


ふとした瞬間、迷ってしまっても手を広げ“ここ”と教えてくれるような、そんな感じ。

I love the passing of time
Never for money
Always for love


僕はまた自分を取り戻して、大好きなパートナーがいる家へと帰り、『アメリカン・ユートピア』を観る。その時、僕にとって「This Must Be the Place」はやっぱり2つの意味を持つラブソングだと実感する。


「This Must Be the Place」という一曲が繋いでくれた映画と曲との思い出。また一つ、この作品とのストーリーが増えたのだから今後辛くなっても大丈夫だろう。こうして映画と繋がる日を少しずつ取り戻せることがわかったから。

幸せな夜は、そんな気持ちまで包み込んで眠りにつける気がした。
Cover up and say good night… say good night




END



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