さよならは突然に。

えもーしょん 小学生篇 #24

さよならは突然に。

2003〜2010/カイト・小学生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.03.26

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#24 「さよならは突然に」
(2003〜2010/カイト・小学生)

ありがとう。

毎年、お正月に行く

ひいお爺ちゃんの、豪邸が好きだった。

ペルシャ絨毯の、糸の匂いに

太陽が当たって、天日干しのいい匂い。

おじいちゃんの、おじいちゃん臭も

嫌じゃなかった。

チクチクよりも、ジョリジョリの

ヒゲに、毎年擦られるのが恒例だった。

大量の、ワインやらウイスキーが

並んだ棚も

大量の、漢字や英語が並んでいた。

本棚も。

ボクは、大好きだった。

庭を見れば

少し間抜けな、ビーグル犬の

「プルート」がずっと尻尾を追いかけている。

尻尾を捕まえて、噛みつくと

痛え! って吠えるプルート。

こんな、景色や匂いが走馬灯のように

雲が流れるように

波にさらわれるように

自然のように、やってきた。

さよならは、突然に。

ようやく、長い冬が終わって

梅が散り始め

桜が顔を出し始めた、季節の変わり目。

いつものように、眠いけど

起き上がり

2階のリビングに向かい

寝ぼけたまま

テーブルに置いてある。

朝ごはんを食べ始めた。

3口目の、スクランブルエッグ。

ん?!

「白いところがまだ、生っぽくて食べれない!」

と、ママにクレームを

入れると

換気扇の下でタバコを吸っていた

パパが

「じゃあ、食うな!」

そう、言ってフゥ〜

「じゃあ、食べないよ〜」

そう、言って

生の部分とよく焼きの部分を

分けていると

家の電話が遠くから鳴った。

キッチンの棚にある、子機に

パパが、手を伸ばし

「はい、福井です」

「ん…?!!!!!」

そう言って、むせると

すぐに、タバコの火を消して

灰皿に擦り付けた。

電話を切ると

「かい、出掛けるぞ」

「早く食え! もう!」

と、いきなり慌てて

ママを呼び、クローゼットから

スーツを取り出して

荷物を次々と、車のトランクに詰めていった。

ボクは、後部座席で

DVDプレーヤーをつけて

待っていた。

タバコの火を消してから

ロックバンドの、突然始まるイントロのよう

ちょうど、Aメロが終わったところ

パパと、ママが

慌ただしく、車に乗り込み

Bメロが始まった。

パパは、急いでエンジンをかけて

ママは、小さな鏡でお化粧をして

パパは、勢いよく車を走らせ

ママは、小さな鏡でお化粧をして

ボクは、後部座席でDVDを見て

パパは、134をかっ飛ばして

ママは、小さな鏡でお化粧をして

パパは、突然スーパーに寄って

ママは、ポーチをガサガサしてスーパーへ

パパは、窓を開けてタバコに火をつけて

ボクは、後部座席でDVDを見て

パパは、タバコをふかして

ママは、走って戻ってくる

パパは、タバコの火を消して勢いよく車を走らせて

ママは、学校に電話をする。

ボクは、後部座席で眠りそう。

パパは、「かい、起きろ!」と言った。

「起きろ!」と、言われるのは

かなり、珍しい事だ。

パパは、言った。

「ひいお爺ちゃんが亡くなった」

ママは、黙って前を向いていた。

ボクは、"亡くなった"というワードを

知らなかった。聞いたこともなかった。

けれど、それがどんな意味なのかは

理解した。

続く


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