山と川

Emotion 第31話

山と川

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.30

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第31話

いくつもの山を越え、川を渡り沢山の虫が顔に当たりながら僕らは多々戸浜を目指し進んだ。

急カーブをそろそろ限界を迎える腹筋でなんとか乗り越えるとペリーの黒船が見えた。ここは昔から変わらない。いつか乗ってみたいなと思いつつも、まだあの楽しさを理解できないだろう。と結今回も結局見て満足。

僕「カイト、あの船乗った事ある?」

ちょうど信号待ちで止まったので聞いてみた。

カイト「あるよ、ぐるっと一周するだけだけど意外と面白いよ」

なんだよ、君は勝手に大人になっていたのか。

海を見つめ深いため息をついて、バイクは再び走り出した。下田駅前のお店は相変わらず変わっていなくて少し安心。カメラ屋さんがなくなっていない事が1番ホッとした。少し先のたばこ屋さんは無くなってしまっていたけれど、屋根がS字に曲がっていたからきっと台風や何やらで辞めざるを得なかったのだろう。

「多々戸浜入口」と書かれた信号を左折。今日泊まるホテルの社員寮を通り過ぎて細い道を進んで行く。

バイクは、エントランスの下の駐車場で止まった。

カイト「到着〜!」

僕「ありがとう」

カイト「どう、久しぶりのここは」

僕「やっぱり、水は綺麗だよね」

カイト「綺麗だよなぁ、何でこんなに綺麗なんだろうね」

僕「ね、不思議だよね」

カイト「とりあえず、チェックインしてくるから、ロビーで待ってて」

僕「了解」

ロビーから見える多々戸浜は何も変わっていなかった。良い波が出てくるピークの場所も、反則負けで敗れたあのピークも。何も変わっていなかった。


続く



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