まぁ

Emotion 第10話

まぁ

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.07.25

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第10話

お盆に入る前のある日、友人のカイトが正式に仕事を辞めた。少し前に公園で会ったときはもう嫌で会社を出てきたと言っていたが、あれから本当に辞めたらしい。彼から仕事を本当に辞めた。と連絡があった時、「そうなんだ」と返信をした。

このとき僕は彼が仕事を辞めるも辞めないも本当はどうでも良いと思っていた事に気づいた。そして、そんなにもどうでも良いと思う他人の相談や悩みを、どうしてその時は真剣に向き合って話を聞いて、アドバイスまでして背中を押すようなことをしていたのだろうか。と疑問が湧いた。

もしかしたら、自分の選択や決断に自信がなくてカイトや他人がそれぞれの思うままに選択し、決断した未来を進んでどうなるのか、実験していたのかもしれない。自分は失敗したくないから、絶望したくないから。他人が目標に向かってどう進んでどう失敗するのか。どう成功するのか。自分のために他人の人生を動かしてみて、見てみたいだけで。親切なんかじゃなくて、自分の為だったのかもしれないと思った。

本当はわかっている、動かないと何も始まらないって。でも、動く前に保険が欲しい。このやり方で少なからず失敗はしないのか。マイナスにはならないのかと。

これじゃあまるで、馬券を買わずに自分の予想を他人に買わせてその人が当たるか当たらないか。自分は何もせずにただハラハラしているおじさんと一緒だ。あわよくば、当たったのは俺のおかげだ。なんて言う心だって正直あるかもしれない。

かと言って、いざ馬券を買おうと思っても自分を信じられない。そんなことをいつまでも繰り返して気がついたらお爺ちゃんになって、ずっと他人を羨ましがって、あの時信じていればって。そう思った時からでも遅くはないけど。行動する力も、そんな考えも、いつの間にか腐ってなくなってしまうんだろう。

今も、もしかしたらカイトは僕を越えようとしている。何もできない僕。仕事を辞めたカイト。

僕は最低だ、心の奥底ではカイトが「失敗してくれ」と願っている。仕事を辞めても結局何も出来ずに絶望して、また何処かに就職してくれと。

僕は自分勝手な人間なんだ。


続く



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