Just One Thing #50
ブランド不明のネックレス
Vivian Miki(アートディレクター)
Contributed by ivy -Yohei Aikawa-
People / 2024.02.22
絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」
#50
「昔から、目立ちたがり屋なんです。中1のとき、初めての文化祭でバンド組んで『リンダリンダ』を歌ったり、高校時代の文化祭で司会をやったり、『タケヤマ(名字)クローバーZ』を結成して全校生徒の前で踊ったり……(笑)」
その落ち着いた語り口からはあまりイメージがつかないけれど、今の彼女を見ても確かに存在感がある人だと思う。たとえば、大人数がいる場で面識がないまま居合わせて、数日後にまた会ったら一発で思い出す、そういうタイプ。
「『落ち着いているね』とか大人になってから出会った友だちから言われると、一瞬びっくりしちゃうというか……。結構、ずっとお笑いキャラ、いじられキャラで生きてきたんですよ」
ありきたりな言い方をすれば「ムードメーカー」。言葉をより字面通りに捉えると、もっとしっくりくる。その場に流れる空気を変えられる人。空気(ムード)を作る人。“自分の色”をしっかり持っている人。
デザイン会社でアートディレクターとして働くVivian Miki(以下、Vivian)の第一印象は、そんな感じだった。実際に身に着けているものは色遣いが特徴的で、彼女の部屋、着ている服、持ち物、すべてVivianのものだと知ったら「ああ、なるほど」と思うものばかりだ。
そんなVivianが肌身離さず身に着けているのは、インパクトのある服を着こなしている印象が強い彼女にとって少し意外なものだった。ゴールドのシンプルなチェーンのネックレス。ブランドも不明だという。
「このネックレスは、18歳の時に両親からプレゼントされました。うちの家族では18歳を迎えたら必ずゴールドのアクセサリーをプレゼントするんです。一生のお守りだから、外しちゃだめだよ、って言われて。仕事をするときはもちろん、シャワーを浴びるときも、寝るときもつけていますね。外すとしたら本当に『どうしても』っていうときくらい。健康診断とか」
ビビッドな服が好きでよく着るけれど、それはあくまで気分を変えるためのもの。特に長く使っているものとなるとこれが一番だ。実はこのネックレスに限らず、Vivianの好きな物、身に纏うものには、家族からの影響が大きい。
「流行りには、疎い方だと思います。ファッションもそうで、私が一番影響を受けたのは父方のおばあちゃん。全身ビビッドカラーの服を着ているのを見たときに、それがかっこいいなって思って」
自ら「目立ちたがり」というだけあって、ビビッドで派手なカラーリングをエネルギッシュに着こなした祖母のスタイルに早い段階で惹かれた。
「この部屋もオレンジのものが多いと思うんですけど、すごく好きな色なんです。友だちからも『Vivianのカラーはオレンジだね』って言ってもらえることが多くて」
確かに、部屋を見回すとオレンジ色のものが多い。細々とした雑貨であったり、全面がオレンジ一色に塗られたドアであったり……。そして、やはりオレンジ色のニットワンピースを着ていた。オレンジづくめという訳ではないけれど、目につくピンポイントにその色が入る。だから全体を見たとき、印象に残る。彼女を連想する色がオレンジなのも、納得がいった。
「特に誰とも会わない休みの日でも、家にいるだけの日でも、少しセクシーな格好をしていたり、派手な色の服を着たりするんですよ。街を歩いているとき見られて快感、っていうのもあるかもしれないなあ、って。あと、前の職場は外資系のホテルで、ユニフォームを着ないといけなくて、今の職場も会社が大きいからかデザイン会社の割にはそこまで自由じゃないんです。だから、好きな格好をするのは土日だけなんですけど、その反動もあります、たぶん」
自分の大好きな色を着ること。全身で自分らしさを表現することが彼女にとって服を着ること。祖母に憧れて形成されたそのスタイルは、彼女のことをずっとそばで見守ってきた父にもいえるようだ。
「性格とか好みは、父親似だと思います。暖かい時は、ずっとアロハシャツ(笑)。昔からそんな派手でおしゃれな父が好きで、誇らしくもありましたね」
彼女の家族は、日系ブラジル人の家系だ。生まれも育ちも日本で、両親と共に幼少期は茨城県つくば市で過ごしているが、その文化や家族のあり方はVivianの中でも日本の同世代の他の友人の家族と比べ、「少し違う」実感がある。
「父は『いかにも』陽気で派手なブラジリアン。母は、逆にすごく奥ゆかしくて心配性で、どちらかといえば『日本人っぽい』性格だと思います。私が見た目も中身も父親に似ているなら、お兄ちゃんは全体的に母似です。幼い頃から両親とも私たちに任せてくれるというか、自由にさせてくれている印象がありますね。その分、私たちを信頼してくれていて、その考え方や主張も尊重してくれるんです。たとえば、彼氏を連れてきたとき。日本の家庭って特にお父さんは心配することも多いみたいですけど、うちの父親はすごくフレンドリーに歓迎してくれるんです。『ミキ(Vivianの日本名)が選んだ人なんだから、素敵な人に決まってるじゃん! パパは応援するよ』って言ってくれて」
我が子のことを見守りつつ、己の判断を促し、自立した存在として育つように促す家族の在り方。それが彼女の家族特有のものなのか、ルーツならではのものなのかは定かではないが、そうした家族のあり方こそが彼女の現在にとって非常に大きな影響を持っていることがわかる。
逆にいえば、Vivianが好きな物やファッションについて話してくれた時、一度も特定のファッションブランドやお店の名前、テイストを表す言葉が出てこないのが強く印象に残った。部屋にあるものすべて、一つ一つストーリーがあって、それにまつわる話を丁寧に語ってくれるけれど、その時もそうだった。
「『こだわりがありそう』ってすごく言われるのだけど……その自覚は全くなくて、むしろこだわりがない方だと思っています。この部屋にあるものも、服もどちらかというと自然にこうなったんです。ただ、友だちからはこだわりがないならこの部屋にならないよ、って言われますけど(笑)」
確かにこだわりがあるかないかと別として、その空間にあるものが自然に部屋に集まってきたのは見えてきた。特定のものを「コレクション」したのではなくて、その時、あるべくしてこの部屋にたどり着いたもの。壁に飾られたアートも、クローゼットいっぱいに詰め込まれた服も、棚に並んだ色とりどりのガラス雑貨も。
「ミックスアンドマッチ、っていう言葉がすごく好きなんです。あまりに統一され過ぎているとなんだか物足りないというか……。色々なものがごちゃごちゃしている中で、なんかマッチしていて、心地よく感じられるのが一番だと思っています」
色々なものがあるけれど、どれもVivianの持ち物として違和感がない。共通の文脈が「彼女のものである」ということだけ。それ自体が彼女のスタイルをあらわしている。とはいえ、そういったものがどういった経緯でここにたどり着いたのだろうか。
「結構、貰ったものが多いかも。家族とか、友だちから。この香水瓶は、父が母とサンパウロで出会った頃、会う度にプレゼントしていたみたいなんです。かわいいから、特にお気に入りのやつを貰って飾っています」
他人から見られる姿というのは必ずしも思い通りではない。ただ、愛する人から見た自分を受け入れた時、見えている自分以上に素敵な物に触れられることもある。鏡を覗き込んだり、自分で投稿したInstagramのフィードに載っていたりする自分とは、違う。むしろ、初めて会う人のような新鮮さをもつことすらある。
たとえば、キッチンの壁に飾ってあるアートは、大好きなグラフィティアーティスト、PRANが彼女自身の姿をイメージして描いてくれたものだ。
Vivian自身が好きなもの、大切にしているものの背景には身近な存在から見たVlvianの姿がインスピレーションを与えている。服を着ることが自分自身を表現することであるなら、その自分自身を形成する上で、親密な存在が強く影響しているからだ。それはまさに、家族から受け継いだネックレスを肌見放さず身につけている彼女自身と繋がる。
ずっと一緒に生活していた家族と離れ、生まれ育った街を出て東京に住み、仕事が変わり……。Vivian自身の毎日は非常に変化に満ちていて、目まぐるしく変わり続けている。ただ、そうした中で変わらないもの、大切にしているものが何かを考えたとき、真っ先に思い浮かんだのがこのネックレスだった。
「これが父で、この人が母です。あと、兄。毎日、目に入る場所に飾っていて、友だちが遊びに来たら必ず紹介しています」
冷蔵庫にマグネットで貼り付けた古い家族写真を見せてくれた。離れていても、身近な存在。その関係性が変わることは、これからもないのだろう。
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Vivian Miki(アートディレクター)
茨城県つくば市出身。両親ともに日系ブラジル人の家系で育った。ハワイマウイ島への語学留学を経て大手の外資系ホテルグループへ就職し、現在は都内のデザイン会社にアートディレクターとして勤務している。三軒茶屋のオルタナティブスペース『SPACE ORBIT』にて自身の友人たちと音楽イベント『vms(ヴェムス)』を主催。主にフライヤー制作やSNS運営を担当している。2月25日にも行うとのこと。詳細はInstagramまで。
Instagram:@vivianmiki_
VMS Instagram:@vms._____
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ivy -Yohei Aikawa-
物書き。メガネのZINE『○○メガネ』編集長。ヒトやモノが持つスタイル、言葉にならないちょっとした違和感、そういうものを形にするため、文章を綴っています。いつもメガネをかけているメガネ愛好家ですが、度は入っておりません。