それは

Emotion 第7話

それは

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.07.20

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第7話

真夏の炎天下の下、公園のベンチでふつふつと自分の沸点に達しつつある怒りを堪えカイトの攻撃を上手く交わしている。

今にも「人それぞれ大変なことも辛いことも我慢していることもあるから。良いも悪いも無いと思うよ」と言ってしまいそうだ。言ってしまえばそれで終わる気もするが、火に油の可能性も十分にある。ここは、寄り添って相槌を打ちつつも彼が必要としている返事を適度にすることが大切だ。

カイト「俺も会社辞めて何かしたいな」

彼の会社を辞めて何かしたい。という言葉を初めて聞いたのは入社3日後のことだった。しかし、あれは誰がやってる。これもそれも。と何かしたいと言うから提案してみてもそれは違うな。と否定してくるので最近は向き合わないことにしている。

僕「グラフィックデザインするって言ってたのはどうしたの?」

彼が珍しく行動に移した最近のことと言えばグラフィックデザインだった。あれもこれも誰かが既にやっているから。と僕の提案を聞いてくれなかったくせに「グラフィックデザインは皆んなやってるから出来そう」ともはや僕には理解できない彼の脳内で何か腑に落ちたらしい。

カイト「うーん、勝ちの途中」

多分、Adobe契約だけしてなにもしていない。と経験者の僕はすぐにわかった。

僕「そうか、、、何か作った?」

カイト「とりあえずね」

僕「何作ったの?」

カイト「いや、それはまだ見せれない」

(見せれないって何よ)

僕「そうか、僕もまだ何も出来てないんだよね」

カイト「僕も。って何?」

僕「ん?」

カイト「いや、だから僕も。って何?」

変なスイッチを押してしまった。ブラック企業に入社してからこの変なスイッチが彼に出来てしまった。恐らく本当に大変なのだろう。

僕「ごめん、カイト結局何もしてないんじゃないかって心の隅の方で思ってしまって」

カイト「うるせーな、こっちは上司のクソどうでも良い何の意味もない話をヘラヘラ笑って。取引先の優しいおじさんの悪口を上司がするから一緒になってそうですねぇ。とか言いたくなくても言ってんだよ!」

僕「うん、そうだよね。ごめんね」

カイト「お前みたいに自由に毎日生きてないんだよ」

僕「いや、僕も自由ではないよ。なかなかしんどい時間もあるよ」

カイト「例えば?」

僕「例えば、、、うーん、このフランクフルト買ったら明日じゃがりこ買えないなぁ。でも買っちゃうんだろうな。それで月末悲しいご飯だろうな。とか」

僕「写真撮ってもなんか自信ないし、全然自分が作ったりするものいいと思えないし。Instagram開く度に自分だけ置いて行かれているようで。どんどん誰からも忘れられていくようで、そもそも覚えてももらえてない気がするし、知らないと思うし。僕今この世界に生きてるのかさえ不安に思う時もあるよ」

カイト「それは…結構深刻だな」

僕「うん」

カイト「ごめん、暑くてイライラしてたし。さっき会社で怒鳴られてそのまま辞めるとか言って出てきたから何かアドレナリン的なの出てたかもしれない。ごめん」

僕「うん、わかってるからいいよ」


続く



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