喧嘩

Emotion 第6話

喧嘩

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.07.19

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第6話

フランクフルトの最後に残る、硬い部分をかじっていると後ろから足音が聞こえた。

カイト「お前はいいよな」

声で誰かすぐにわかった。そして何となく今日はめんどくさくなる予感がした。

僕「お疲れ様」

カイト「お疲れ様、、はぁぁぁぁぁぁぁ」

彼は横に座るとすぐに大きなため息をついて空を見上げている。何か見えるのかと、僕も空を見る。

カイト「お前はいいよな」

よくわからないので聞こえないふりをした。彼が次に何を話すか検討もつかないので数を数える。1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12…
20秒目でようやく彼が何かを話しそうだ。

カイト「え、無視?」

今日は確実に面倒な日だ。せっかく青空の下フランクフルトを食べていたと言うのに。

僕「どうしたの?」

その言葉を待ってました! と言わんばかりに彼の口からボロボロと仕事の愚痴が出てきた。ここまではまだいい。彼の矛先が上司や会社だからだ、問題はここから。ネタが尽きるが心は晴れないまま僕を見るや否や間違いなく僕を攻撃してくる。

カイト「お前はいいよな」

始まってしまった。なるべく隣で存在を感じさせないように、目を合わせないようにしていたが無駄だったようだ。

僕「何が?」

カイト「自由で」

(あ?????何言ってんだこいつ)と彼の一言で腑が煮え繰り返りそうになるが張り合ってもしょうがないので聞こえなかったことにした。

僕が黙っていると、返事をしないことに彼は腹が立ったようだ。

カイト「こんな昼間から、何も気にしないでボケーっとフランクフルト食べて。人の目も気にしないで根元の硬いところかじってるとかマジでいいよな」

100歩譲って、何も気にしない。は何も考えていなかったならわかる。けれど、人目を気にしないでフランクフルトの硬い部分は食べていない。割と気にしてこっそり食べていたつもりだった。

それに、彼の最近の口癖「お前はいいよな」は羨ましいなどの感情はない。
彼は忙しく、休みのない自分と僕を比べ「自分より楽そうでいいよな」と言っているのだ。それについてはこっちも全然楽ではないし、毎日苦しい。とても不快だ、けれど僕は知っている。このような状態の人間と張り合っても結果的にあの時黙っていればよかった。と後悔することを。


続く



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