Aiko Fukuda

広がっていくイラスト表現の可能性

Contributed by kimura kei

People / 2017.11.15



レトロで幻想的な世界観のイラストで、ファッション雑誌からアパレルブランドのカタログ、コスメのコマーシャルまで幅広い分野で活躍中の人気イラストレーター、福田愛子さん。千葉県・市川市にあるアトリエにお邪魔して、彼女が模索している新しいイラストの表現方法について話を聞いた。

自分が求めていた創作。


—福田さんは現在イラストレーターとして、様々なメディアで活躍されていますが、イラストに興味を持ち始めたきっかけは何だったんですか?

大学時代、ボストンへグラフィックデザインを学びに留学をしていたときに、雑誌「NYLON」の表紙が目に止まって手にとったんです。当時は日本でまだリリースされていなくて、おしゃれな雑誌だなと思って読んでみたら写実的なイラストが掲載されていたんです。ページの一コマに小さく描かれたイラストなのにすごく丁寧に描かれていて、アメリカは雑誌の挿絵でもこんなに素敵な表現をするのかと衝撃を受けました。それがイラストに興味を持つきっかけでしたね。ただ、実は絵を描くことはあまり得意ではなかったので、まさか自分がイラストレーターになるなんて、その当時は考えてもみなかったけれど。

-絵が得意でなかったというのは意外ですが、イラストを描き始めたのはどういった経緯だったんですか?

先ほどもお話しましたが元々はデザイナー志望だったんです。デザインの勉強のために留学をし、大学を卒業して、帰国後にデザイナー職をいくつか受けてみました。でも、毎回デッサンを描く実技試験で落とされて、基礎的な画力が必要だなと思いデッサン教室に通い始めたんです。イラストをしっかり描き始めたのはそれからです。デザイナーとして就職が決まった後も、デッサン教室には毎週末通っていました。デザインの仕事は忙しくて、とにかく仕事をこなすことが第一優先。考えてひとつのデザインを仕上げるっていう環境ではありませんでした。そういったアウトプットの仕方に納得がいかなくて、もっとこだわってひとつのものを仕上げたいなと考えていた私にとってイラストは納得できる表現方法だったんです。だから、当時は教室で絵を描くのに没頭している時間が唯一の癒しでしたね。

そうしているうちに、イラストを仕事にしたらデザインというクリエイティブに近く、より綿密なプロセスで自分の表現したいことを形にできるんじゃないかって考え始めたんです。『わたしのやりたいことってこれなんだ!』って思いました。それから、イラストを仕事にするって、どんな可能性があるんだろうと色々イメージしたり、調べたりしました。イラストレーターとして食べていくのは難しいとよく言われますが、身の周りをよく見てみると商品のパッケージだったり、ショップのディスプレイだったり、イラストって実は幅広く使われているということがわかって。イラストにはすごい可能性があるんじゃないかと感じました。

新しいイラスト表現を目指して。


-イラストレーターとして仕事をする上で、福田さんが大切にしていることはありますか?

ファッション誌の挿絵や、整髪料のパッケージなどさまざまな形でイラスト制作をしていますが、いただいた仕事に対して「常に最善を尽くそう」というのはいつも心がけています。納品までの期間は寝ても覚めてもずっといただいた仕事について考えています。それと、自分の「作風」も大切にしたいと思っています。私のイラストには3つくらいのテイストがあって、案件によって描き分けているんですけど、実は最近少し作風がブレてきてしまっていて。ここ数年新しい手法を試行錯誤していて、あれこれトライしているうちに元々のテイスト自体が変わってきてしまったんです。新たな事に挑戦し続けていくことは大切ですが、自分の作風が散漫になってしまうのはあまり良くないので、ちゃんと「自分のイラストはこうなんだ!」っていうブレない軸を持って描いていこうと思っています。

-色々なことを試行錯誤しながら、いまの福田さんのイラストが生まれているんですね。ご自身が目指すイラストの方向性はどのようなものですか?

昔の写実的な絵というか、パッと見てイラストって思われないようなものにしたいと思っています。例えば、最近作品に点描画などを取り入れているのもそんな理由です。クラフトマンシップへの憧れが強いというか、先人たちが手作業でこつこつと作り出した作品に通じるような、ビンテージ的な魅力を表現したいなと思っています。



-福田さんは最近デジタル機器を使った表現も手法に取り入れてますよね。appleのワークショップに招かれて、iPadを使ったイラストの描き方をデモンストレーションされたこともあるとお聞きしました。

アナログな作風が好きだったので、ずっと紙に手描きという一般的な手法で描いていたんですが、デジタルデバイスも取り入れて描くようになりました。きっかけは、デジタルでアナログっぽい絵が描けないかなっていう単純な興味からなんですけど、最近はVRやARという映像の表現方法が現れて、そういう最先端の技術を使ってイラストを表現したら、もしかしたら新たな世界観が生まれるかもという別の期待もあります。特にデジタルの絵やVRってすごくフューチャリスティックなテイストのものばかりなので、私が描いているアナログタッチの世界観を映像にしたらどうなるのかとても興味があるんです。今はどうしても、デジタルテクノロジーを使うとアナログで描いているイラストよりどこかチープに感じられているところがあって、そんな印象を変えられるような作品を世の中に発信したいと思っています。デバイスの機能もかなり上がってきていますし、アナログで描いている表現をデジタルで遜色なく再現できるようになってきました。新しいものをどんどん取り入れることで、イラストの可能性も広がっていくと思います。

-福田さんのレトロテイストの点描画などが、最新技術を使うとどのように表現されるのか確かに興味深いです。近々何か新しい試みはありますか?

新しいトライをした「Cabinet of Curiosities-不思議な棚-」と題した展示がちょうど始まったところです。展示コンセプトは私がいつも頭の中に描いているイメージを表現するというもので、蝶が部屋中を飛び回る画や、チーターと大きな肉の塊が部屋に同居するシュールな画など、まるで他人の夢を覗くような作品になっています。ミッドタウンにあるファーバーカステル(ドイツの老舗筆記具ブランド)が声を掛けてくれて、商品棚をひとつ展示スペースとして使わせていただけることになったので、今回はペーパークラフトを使った立体的な仕掛けのある展示を心がけました。イラストレーターなら誰もが知っているような画材屋というスペースで作品を展示できるのはイラストレーターとしてはとても嬉しいですし、展示の内容もいままでに無い作風なので、ぜひ足を運んでいただけたらと思います。


TRIP/旅とは自分と向き合う時間


-福田さんは旅に出られることはありますか?

旅は大好きです。よく一人旅をしています、印象に残っているのはつい最近行ったニューヨークとサンフランシスコへの旅です。大学時代の友達の家に泊めてもらって、いつものツアリスト感覚とは違う、自分もそこに住んでいるような気分になれたのが新鮮でした。観光名所とかには全然行かずに、みんなでスーパーに行って、ピザを食べたり、そこに住んでいる彼らにとっては日常的な光景なんですけど、私にとっては貴重な体験に感じられてすごく楽しかったです。

-現地の人たちの日常を感じられる旅になったのは貴重でしたね。福田さんにとって旅とはどういうものですか?

私にとって旅は自分と向き合う時間ですね。旅に出ると、ひとりで街の中を歩く時間が多くて、そのときに自分の中でいろいろ考えるんですよね。日本にいる間は解決策の浮かばない悩みや、なかなか判断がつかないことを旅の間考えて、解決するようにしています。旅の間は周りからの雑音も少ないですし、自分を見つめる貴重な時間になりますね。

LOCAL/安心感のある場所


-続いて、福田さんの地元についておうかがいしたいのですが、現在もアトリエを構えているご自身の地元である千葉県市川市に愛着はありますか?

めちゃくちゃあります。江戸川がここから歩いて5分くらいのところにあるんですよ。思春期の時は土手に行ってはいつも物思いに耽っていましたね (笑)。失恋したらそこに行くみたいな。大学受験に失敗したときも土手に行って、夕日を見てました。ドラマチックなことをやりたかったのかもしれないです。

-海外留学などで日本から離れていた期間も長かったと思うのですが、それでもまた市川に戻ってきたのはやっぱりこの場所に愛着があるからですか?

市川に、というよりも自分が訪れたところすべてに愛着があるんです。旅行っていうよりは一ヶ月単位で住んだりとか、滞在する期間が長ければ長いほどその場所に愛着が沸くんです。ただ、市川の都会過ぎないのどかな感じや、慣れ親しんだ江戸川の風景を見た時の安心感は他の場所では感じられないものですね。

By(X)/離れていても同じ感覚でいられる仲間


-それでは、最後の質問になります。福田さんにとって仲間とはどういう存在ですか?

基本一匹狼なので(笑)。仲間っていう言葉があまり好きじゃないんです。親しい人でも一年とか、二年とかざらに会わなくなっちゃったりするんですけど、でも二年ぶりとかに会っても分け隔て無く一週間ぶりくらいに会ったくらいの感覚でいられる人は何人かいて、そういう人々を心の中では仲間だと思っていますね(笑)。



プロフィール
イラストレーター 福田愛子さん
千葉県市川市出身。1986年生まれ。ブリッジウォーター州立大学芸術学部グラフィックデザイン学科卒業。帰国後グラフィックデザイナーなど働く傍ら、趣味で点描画を描き始める。2014年よりイラストレーターとして活動を本格化させ、一本のペンで描かれる繊細かつ独特な世界観でファッション誌や広告、美術館背景などで活躍。最近ではiPad Proを使ったデジタルドローイングや紙を用いた飛び出すイラストにも取り組むなど、表現の幅を拡大中。

Tag

Writer