宇宙飛行、梅雨編

えもーしょん 中学生篇 #37

宇宙飛行、梅雨編

2010〜2013/カイト・中学生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.06.23

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#37 「宇宙飛行、梅雨編」
(2010〜2013/カイト・中学生)

雨が止まった。

それなのに、湿気が多すぎて

洗濯物も、カーテンも

開けっ放しの窓の前に置いたおもちゃも

全部、濡れている。

洗濯物が、納豆の匂いがする。

カーテンが、カビ臭い。

イライラする。

「雨、止んだから波見てこいよ」

換気扇の下で、タバコを吸いながら

パパが言った。

気のせいか

タバコの匂いも、煙も、湿気ている。

「やだよ、自分で行ってよ」

と、ボク。

なんだか、めんどくさくてソファから

起きたくない。

「いつまで、寝てんだよ。行ってこい」

ふーー。

少し、深めにタバコ吐くパパ。

換気扇の音と共に、伝わる。

イライラ。

「はぁ」

しょうがないなぁ。

よりも、ん、やばいかも。

と、義務より危機感を感じ

重い腰を上げ

そぉっと、ビーサンを履いて

家を出る。

家のウッドデッキが濡れていて

早速、冷たい。

末端冷え症なので

即、足先の感覚がない。

門を開けると

ワンワン、ワオーン!

ど、バローズが吠えた。

「あ、忘れてた」

門を持つ手が、一瞬止まり

足に力が入ったが

心の奥底で

めんどくさいマンが登場し

そのまま、家を後にする。

ワンワン! ワオーン! ワオーン!

と、しきりに

バローズが吠え続けているが

心を無心に、残忍なボクは

足を止めることも、家を見ることもせず

海へ向かう。

重い、空。

重い、空気。

重い、足。

一歩、一歩が重い。

プールで歩いているように。

宇宙で歩くとこんな感じなのだろうか。

「ピーピー、こちらKAITOあたりは灰色に染まり、空気は重く、無重力だと思っていたものの、かなりの重力があるようです。どーぞー」

「ピーピー、こちら本部パパはいまだ換気扇の下。二箱目の袋を開けようとしています。もう少し、時間稼ぎが必要です。どーぞー」

「ピーピー、こちらKAITO。気づくと陸橋を歩いています。間も無く折り返し地点です。波は、無さそうです。無音です。無風です。どーぞー」

「ピーピー、こちら本部。二箱目を開け早くも2本目を吸い終わりそうです。陸橋の上からではなく、ビーチまで行った方が良さそうです。どーぞー」

「ピーピー、こちらKAITO。現在、陸橋の上ですが、どうも、波があるように見えます。幻でしょうか?宇宙病でしょうか?バイタルのチェックをお願いします」

「ピーピー、こちら本部。2箱目も残り1本となり、吸っていいのか、我慢すべきか悩んでいる模様。バイタル、異常ありません。酸素濃度も湿気が多いくらいで特に異常はありません。どーぞー」

「ピーピー、こちらKAITO。ありがとうございます。腰〜腹程度、波があるように見えます。少し早めに戻ります。どーぞー」

「ピーピー、こちら本部。結局2箱吸い終わり、ソファに沈んでいます。内緒に海へ行った方が良さそうです」

陸橋の坂を滑らないように

足早に降る。

重い空気が嘘のように、軽くなり

走る、ボクの足には

ビーサンから、跳ねた。

土や、松の葉が付いている。

そぉっと、玄関を開け

そぉっと、ウエットスーツに着替えると

バローズがやってくる。

「ちょ、ちょっとまってて。待て、待てだよ。待て」

今にも、吠えそうなバローズ。

ワックスは塗らずに

そぉっと、家を出る。

門を開けようとした、その時。

ワオーン!!!

「かい、どうだったー?」

上から聞こえる

パパの声。

「んー、なんもなーい!」

残忍なボクは、海へ向かう。


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