ツインフィン

えもーしょん 高校生篇 #33

ツインフィン

2013〜2016/カイト・高校生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.06.03

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#33
「ツインフィン」
(2013〜2016/カイト・高校生)

サーフィンを辞めてから

2年が経った。

それから、一切海に入っていなかった

わけではない。

物足りなさを感じながらも

月に、1、2回ほどサーフィンをしていた。

先の尖った、ぺらぺらなボード。

軽くて、早くて

自分の思い通りに、よく動くボード。

どうも、しっくりこないのは

これのせいかもしれない。

そもそも、サーフィンは

自分の思うようには

行かないのが、大前提としてある。

色々な制約の中に

自由を見つけ、気持ちよくなれる事で

ボクはきっと、幸せを感じるのだろう。

海から戻り

お昼に、具なしラーメンを食べ

夕方、風が変わるらしい。

と、情報を得たので

濡れたウエットスーツを着るか

少し小さい、乾いた

ウエットスーツを着るか

倉庫の前で悩んでいた。

使わないボードを整理していると

奥の方に、1本の

ツインフィンのボードを見つけた。

昔のスポンサーから

借りていて、当時は

乗らなかったので

恐らく、倉庫にしまったままになっていたのだろう

これは、乗れるのか…

と、手前のボード達を

1度、全部倉庫から出して

奥のツインフィンを取り出した。

無傷のままのツインフィン。

長さは確か

5’7だった気がする。

ボクの身長にぴったりであった。

ボクと、彼女の恋が始まる。

かわいい、フィッシュテールの彼女。

なんと、オンフィンではないか!

古い、ワックスを丁寧に落とし

近くのショップへ

ベースと、ワームを買いに行く。

唯一、ボクの好きなサーフショップ

アンチな、店長が今日もカッコいい

お互い、干渉せず

余計な事は話さない。

ワックスを買うボクと

ワックスを売るりょうくん。

ただ、それだけだった。

今のボクには、これが

1番ベストな、サーフィンと

サーファーの距離感である。

ワックス買って帰ると

彼女は裸で待っていた。

優しく、格子状に

ベースを塗り

細かい山を作るよう

小さな円を描くように塗っていく

ふと、

そこまで、本気でワックスを塗ることが

重要ではないと感じた。

なぜなら、彼女は

とてつもなく、頑固そうだったからだ。

ボクは、手を止め

結局、濡れたウエットスーツに

袖を通し、彼女を大切に抱え

自転車を漕ぎ、海へ向かう。

気がつくと、風は変わっていて

心地よい、夕焼けが

ボクの背中を優しく暖める。

長い坂道を降れば

船が並ぶ、漁港。

その先に見える

綺麗なピークが

お帰り。

と、ボクを迎えてくれた。

続く


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