休憩

Emotion 第38話

休憩

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.09.12

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第38話

静かな深海を泳ぐように、暗い山道をバイクは進む。カーブも減速も、急発進も慣れれば心地よく感じてくる。寝てはいけない。と目を開かせていた強い意志は、時間とともに大丈夫だろう。なんとかなるだろう。とじわりじわりと睡魔に負けて行く。ひと山越える度に一台ほどしかやって来ない、対向車のライトで起こされては再び夢と現実の間の暗い世界に戻って行く。

目を閉じて耳を澄ますと、トラックの音が聞こえる。あの細い山道はトラックが通れる幅はきっとないだろうし、自分がトラックの運転手なら怖くて通らないだろうと考える。きっと高速道路に入ったのだろう。

瞼を越えて、沢山の光の点を感じる。これは間違いなくトンネルだ。右側の車線から時々とんでもない速さの車が僕達を追い越して行くがもう驚く事はない。

風の音と冷たい空気、エンジンの微振全てが心地よい。もうこのまま何も考えずに身を委ねてしまいたいが、僕の中で何かがそうさせない。これこそが心の底の気持ちや意識なのかもしれないと感じた。

カイト「〜〜?」

風の音とともに彼が何かを言っているが、やはり何もわからなかった。しかし、出発前にトイレは肩を3回叩く。と約束をしていたのでとりあえず彼の肩を3回叩いてみた。彼はオッケー。とサインをして再び運転に集中した。しばらくするととても大きなサービスエリアに着いてバイクを停めた。

カイト「トイレ行く?」

僕「いや、大丈夫。お腹減ったよね」

カイト「ここのサービスエリア温泉あるよ」

僕「え、、、」

サービスエリアはトイレをしたくなくても、お腹が空いていなくても寄りたくなってしまう魅了がある。ずっと車やバイクに乗っていると常に揺れているから平らな地面でのんびりする事が気持ち良いと感じているのかもしれない。それはもしかしたら、南極へ向かう船に乗ってひさしぶりに地面に立つ人と同じ感覚かもしれないが。とにかくサービスエリア好きの僕ににとって温泉は少し贅沢だと感じてしまった。


続く



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