原稿

Emotion 第44話

原稿

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.09.21

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第44話

カイトを待っている間にすっかり夕方になってしまった。店主のセレクト本を詰まりながらも読み進めたがあまり印象に残ることはなかった。ここまでカイトを待っているということはきっと心のどこかで彼を心配しつつ就職してしまう彼のことを無責任だと感じて、引き止められなかったことに後悔しているのかもしれない。

彼は、この夏に旅をして自分を探すのではなく自分とお別れをしていたのだと思った。就職して週の大半を仕事に費やし、少しの休日に好きなことをする人生を選んだのだ。それでも何となく僕はそちら側に行かないで欲しいと思っていた。思ってはいるだけで、彼に何か出来ることは特にないしもちろん手を差し伸べる事も出来なかったし、彼の疑問や悩みに答えを出せる自信がないから話を聞くことすらも出来なかった。だから今日、ずっと彼をここで待っているのだろう。彼に謝ることは出来ないけれど、待つことで勝手に自分の中で彼に対しての謝罪と捉えて清算しようとしているのだ。

そんなことを考えていると、なぜか緊張してきてしまった。別に喧嘩しているわけでもないのに何を話せば良いのだろうか。などと考えてしまったからだ。

カフェの扉の小窓から彼の顔が見えた。扉を開けるとすぐに目が合い僕は少し手を挙げた。ニコリと笑いこちらにやって来る。

カイト「久しぶり」

彼の表情からして、特に重い話があるようには感じなかった

僕「久しぶり、仕事はどう?決まった?」

カイト「そうそう、決まったのよ」

店員さんがお水を持って来ると、彼はアイスコーヒーを頼んだ

僕「よかったじゃん」

カイト「まぁねぇ、入ったばかりで全然働いてる感じはしないけど」

僕「何の仕事してるの?」

カイト「PR会社だよ、少し前にPRでキャンドル貰ってなかった?」

僕「もらったよ、名前入れてくれたやつでしょ」

カイト「そうそう、あのブランドとかやってる会社」

僕「まぁまぁ、大きいところ入ったね 笑」

カイト「そう、担当はレディースのブランドだけど楽しいよ」

僕「それはよかった」

カイト「本当は俺も絵描いてアーティストやってみたかったし、ギターとか弾いてジミヘンみたいになりたかったけど、そういう人間じゃない気がして」

僕「続けていればいつかそうなると思うけど……」

カイト「まぁ、そうなんだけど。目に見える成果とか変化がないと自分に自信ないし続けられないんだよ」

僕「なるほど」

カイト「その辺、オワリは変人だよね。誰も見向きもしなくても1人でコツコツ何かやってたもんね」

僕「うーん」

カイト「性格の問題なのかな」

アイスコーヒーが届くと彼は半分ほど一気に飲んだ。それからしばらく新しい仕事の話をして解散した。帰り道、ゆっくり今日の会話について考えながら歩いた。彼は性格の問題と言っていたけれど、僕には単にやる気の違いだと感じてしまった。そう感じてしまうのは体育会系で育ったからなのかわからないが、意志の強さが関係しているのではないだろうか。


続く



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