こちらは、バカンス

えもーしょん 大人篇 #46

こちらは、バカンス

2016~/カイト・大人

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.07.20

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#46
「こちらは、バカンス」
(2016~/カイト・大人)

思い立ってある日。

沖縄行きのチケットを買った。

ホテルとセットでお得! なんて言うから

夏のドキドキのせいでつい買ってしまった。

「まぁ、ホテルをわざわざ探さなくていいか」

そんなことを考えていたのがなんだか懐かしい。

今は、空の上。

右を見れば、綺麗な空が…。

なんて言いたいが

残念ながら、右はおじさん。

左もおじさん。

綺麗なビール腹に挟まれ

ギューギュー、パンパン。

右も左も、前も後ろも。

これほど、お手本となる3密はないだろう…。

そんなことを考えていると

やはり、トイレに行きたくなる。

が、行きづらい。

「ちょっと、トイレに」

と、トイレの方や通路の方を見てアピールしてみるも

通路側のおじさんは眠ってしまっているのか

はたまた、めんどさくて動きたくないので

寝たフリをしているのか…。

どちらにせよ、こういう時は

我慢した方が負けだ。

仮に、我慢してギリギリまで

おじさんに気を使った場合のことを想像してみる。

トイレには、誰か他の人が入っている。

「空いたら、次は行こう」

そう思い、テーブルを畳み

貴重品をポケット入れ、ベルトを外す。

少し、限界が来ているので

冷や汗と、貧乏ゆすりで

おじさんにプレッシャーをかける。

ガチャ

トイレから人が出てきた。

ボクを、通り過ぎたら行こう。

よし、今だ。

「あ、ちょっと、あ」

斜め向かいの人がスッと立ち上がり

トイレへ向かう。

「あぁ」

あと、何人我慢できるだろうか?

次こそは…。

ガチャ

さっきの人がトイレから出てきた。

もう、行く

待たない、もう行く。

そう、自分に言い聞かせ

「すみません、トイレに…」

と、おじさんに伝える。

おじさんは、うんともすんとも言わず

立ち上がり、ボクを通す。

すると、その時

ポーンポーン。

「ベルト着用のサインが出ました」

と、CA さん。

はあ、終わった。

ボクの膀胱が爆発する…。

「すみません、ちょっと、ちょっとだけ! すぐに!」

とは、こんな小さな飛行機で言えない。

さらに、ボクと一緒に立ちっぱなしのおじさんの顔も見れない…。

そう、だから飛行機でのトイレは

我慢した方が負けなのだ。

ボクは、紳士的に

「すみません、トイレへ行かせてください」

逆にお願いする事にした。

おじさんの鼻から大きなため息が出たものの

立ってくれた

「すみません、すみません」

と、前を通り

トイレへ向かう。

心の中では

「なめやがってクソジジイ」

と、吠えている自分がいるが

ここは、トイレが優先

「ありがとうございます」

と、丁寧にお辞儀をし

ボクはトイレへ向かう。

スッキリしたところで

便器の中の大きなブツにおじさんの顔を思い描き

「さよぅなら〜」

と、流すボタンを押す。

はぁ〜! スッキリ〜!

トイレのドアを開け

ふと、前を見る。

「ふぅ〜」

鼻から大きなため息をついたおじさんの姿。

「あ、すみません」

と、ボク。

「ふぅ〜」

と、おじさん。

しかし、先程の「すみません」は

「臭いです、かわいそうに」

の、意味が込められている。

そそくさと、先に戻る

おじさんがトイレに入ろうとした瞬間。

ポーンポーン

ベルトのライトが光る

「え? いいですか?」

と、CAさんに目で訴えるおじさん

「お戻りください」

と、CAさん。

ボクは、小さくガッツポーズをした。


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