朝日

Emotion 第30話

朝日

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.29

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第30話

バイクに乗って、高速道路を走る。新しいトンネルはライトが白く目がチカチカした。一瞬意識が飛びそうになって自分はこんな状況でも眠くなるのか。と驚いた。

やがて見覚えのある標識が目に入る。そして彼が下田へと向かっていることがわかった。高速道路を降りるとやはり見た事のある、川、そして川沿いの少し安いガソリンスタンド。少し走ると駐車場の脇にに天然の温泉が流れているコンビニがある。

カイト「あそこ覚えてるー?」

風に乗ってカイトの声が聞こえた

僕「覚えてる!まだあるんだね!」

僕の声は多分聞こえていない。けれど、自分が質問したのに何もリアクションしない彼を見るとやはりこの男は僕を乗せる以前に誰かを乗せていたのだろうと思った。僕が彼の彼女ならば、まずここでイエローカードを出すだろう。

バイクは減速し、コンビニの駐車場で止まった。

カイト「ふぅ〜」

僕「ふぅ〜」

カイト「どう?バイク」

僕「新鮮」

カイト「だよね、意外と落ちないでしょ?」

僕「そう、もっとふらふら危ないかと思ってだけど大丈夫だった」

カイト「よかった、よかった」

僕「コーヒー飲む?」

カイト「いいね」

僕「買ってくるよ、待ってて」

カイト「ありがとう」

買ってくるよ。と言いつつ早めにトイレに行きたかった。少し早歩きをしてトイレに向かい、コーヒーを買って戻ると彼はスマホを見ていた。

カイト「ありがとう」

僕「こちらこそ」

カイト「ここ、覚えてる?」

スマホに写っていたのは、懐かしい海の写真だった。大会や家族で訪れた多々戸浜。

僕「懐かしいな…」

カイト「懐かしいよな、ここのホテル取ったから行こうか」

僕「え、、ありがとう」

カイト「行こうか、因縁の地へ」

僕「行こう」

なぜか彼は知っていた。多々戸浜は僕が最後に出場したサーフィンの大会で最後だったのにも関わらず、気合が入りすぎて1回戦目で反則負けした場所だった。こんな場所二度と来ない! と泣きながら帰って以来数年ぶりに向かうのだ。


続く



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