東京

海と街と誰かと、オワリのこと。#17

東京

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.02.02

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


ついにやってきた、東京の新しい家。3階建ての3階が僕の部屋、1階は大家さんが住んでいて2階は大家さんのいとこが住んでいるらしい。部屋に入る前にお父さんと大家さんに挨拶をすることに。

ーーピンポーン

大家さん「はぁい」

部屋の奥の方から声が聞こえた。

僕「今日からお部屋をお借りします、オワリです」

ドアが開いて大家さんがやってきた。にこりと笑ってくれて、怖い人ではなくて安心した。

大家さん「わざわざありがとう、何か困ったことがあったら相談してね」

僕「ありがとうございます、よろしくお願いします」

父「よろしくお願いします」

大家さん「2階はほとんど倉庫代わりで住んでないから、気にしないでね」

僕「わかりました」

大家さんに手土産を渡して、階段を上る。さっき不動産屋さんでもらったばかりの鍵でドアを開ける。

少し薬品の匂いがしたけれど、大きな窓から光が差し込んですごく明るい。窓を全部開けて、忘れていた電気、ガス、水道の連絡を急いだ。それぞれの担当の人が今日中に来てくれるらしい、一安心。3つしかない段ボールはすぐに開けて片付いてしまった。ほらな?大丈夫だろ?と言わんばかりのお父さんの顔。

父「オワリは色々終わるまで家出れないかぁ」

僕「うん、漫画読んで待ってるよ」

父「お父さんちょっと散歩してくるよ」

僕「わかったよ、気をつけてね」

漫画を読んでのんびりしていると、電気とガス担当の人が来てくれた書類にサインをするだけで後はネットで申し込むらしい。親切な人でネットでの申し込みも手伝ってくれた。電気ガスの人が終わって見送ると水道の人が来た。こちらもサインをして、蛇口を捻って変な色の水が出ないか確認するだけだった。

ーー「オワリーーー!」

外から誰かに呼ばれた、ベランダから下を見るとお父さんがトラックからベッドを運んでいた。急いで階段を降りて手伝う。

僕「早かったね」

父「よかったな」

2往復で家にベッドも棚も運び込んで、組み立てもすんなり終わってしまった。ベッドが部屋にあると一気に生活感が出た、ついに一人暮らしが始まるんだ。

父「じゃあ、お父さんは帰るよ」

僕「ありがとう」

父「具合悪くなったら、とりあえず連絡してな」

僕「わかったよ」

父「じゃっ」

お父さんは、なぜか少し嬉しそうに帰っていった。

「ブーーーーッブブッーーーー」
「ブーーーーッブブッーーーー」
「ブーーーーッブブッーーーー」

ーー携帯のバイブレーション

母「引越し終わったかな?明日お父さんと遊びに行くね〜」

なるほど、さっきの笑みは「ま、明日もくるけどな」ってことだったのか。

続く



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