読者第一号

Emotion 第15話

読者第一号

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.02

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第15話

ブログを始めて数日が経った。閲覧数を気にする事なく、毎日感じた不満や店長の理不尽なお願いなどをいつかの自分へ向けて書いている。今日から数ヶ月、数年経った僕はその時でもまだ傷ついているだろうか、もう許せただろうか。今よりももっと嫌なことも納得できないこともグッと飲み込めているだろうか。

今日も店長は自分勝手に話をする。たまに相槌を打って、それなりの言葉を返さないと「話聞いてた?」と何故か店長の苛立ちを当てられるのだ。僕はその辺、かなりの免疫力がある。巧みに店長の話したワードを拾い上げて、しっかり自分の意見に乗せて返すのだ。10回中7回くらいは、うまくいく。

しかし、その中でも3回はハズレを引いてしまう。そんなときは「いや、そう言う話をしたいんじゃなくて…」「え、話聞いてた?」と今にも拳を店長の顔面に当ててやりたくなるが、グッと堪えるのだ。

そんなことをブログに書いていると、コメントが一件入った。通知をオンにしていたことすらも知らなかったくらい、僕のブログは動いていなかったが。初めての通知、初めてのコメントだった。

「毎日楽しく見ています、理不尽な事もあるけど頑張って」

嬉しい…はずなのに。この気持ちはなんだろうか。嬉しいはずなのに、あまりにも平常心だ。誰かに見つけてもらいたかったのに、なんでもいいから褒めてもらいたかったのに。言われたい言葉が違うのか。これじゃあ店長と一緒じゃないか。「ありがとうございます!」なんて思ってもいない事を、元気に言って……誰かに見つけてもらって繋がったことで、醜い自分の姿を知ってしまった。


続く。



アーカイブはこちら

Tag

Writer