新宿御苑

海と街と誰かと、オワリのこと。#23

新宿御苑

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.02.14

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


電車に乗って広告を見るふりをしながら周りを見渡したけれど、やっぱり姿はない。仮に見つけたとしても声を掛ける勇気もないし、突然声を掛けるなんて東京デビューのチャラ男と思われるだけだ。落ち着いて窓の外を眺める。

電車は各駅だった、ゆっくり走る電車の窓から見える学芸大学から祐天寺の間の風景が一番好きだ。背の高いビルが少なくて、いろんな家の形が見える
。たまに屋上で洗濯物を干す人が見えると得した気持ちになる。

目黒川の桜が綺麗に咲いている。幸せそうに手をつないで歩くカップルが少し羨ましかった。そういえば、ゆきは元気だろうか。
東京に引っ越してからラインが来たけれど、なんとなく見る気にならなかった。あんなに泣いて、もう恋なんてしないし、誰かを好きになるとか恋愛感情なんて溶けた、消えた。って思ったけれど、意外と早く立ち直ったと思う。

ーーーー次は〜新宿三丁目〜

やっと、新宿三丁目駅に着いた。電車を降りて広い地下を歩き出口へ向かう。何度も階段を上り下り、人の流れに乗って運ばれるように歩く。最後の薄暗い階段を登るとようやく地上に出られた。眩しくて、自分がもぐらのように思えた。沢山のビルが立ち並ぶ先に緑が見える、きっとあそこが新宿御苑だろう。

スターバックスでアイスコーヒーを買ってもう少し歩く。

ーーーードトールあるのか。。。。

どちらかと言うと、スターバックスよりドトール派。次からはここまで我慢しよう、と再び歩く。

ブーーーーッブブッーーーー
ブーーーーッブブッーーーー
ブーーーーッブブッーーーー

ーー携帯のバイブレーション

加藤さん「オワリ君、おはよう」

加藤さん「新宿御苑の場所わかったかな?」

僕「おはようございます、ちょうど到着しました」

ーーーー写真

加藤さん「お、そうしたらチケット買ってゲートを進むと売店があるんだけど」

加藤さん「そこで社長と待ってるね」

僕「え!今向かいます!!!」

チケットを買って、ゲートを進むとアイスクリームの旗の前に2人がいた。

林さん「おはよう、夜大丈夫だった?」

僕「おはようございます、はい大丈夫でした」

加藤さん「すごい嵐だったでしょう」

加藤さん「回復してよかったね」

ーーーー寝坊しないようにベットから離れたところに携帯を置いて正解だった

加藤さん「ここが温室だよ」

林さん「久しぶりだなぁ」

僕「デカーーーッ」

加藤さん「オワリ君、好きなように写真撮っておいで」

加藤さん「終わったら連絡してね」

僕「はい、わかりました」

2人と一旦別れ、とりあえず温室をぐるっと一周した。大きな葉っぱの写真を何枚か撮ってあとは食虫植物と小さな池の写真を撮った。初めてにしてはなかなか上手く撮れた気がした。出口へ向かうと加藤さんが立っていた。

加藤さん「撮れた?」

僕「はい、まぁまぁ撮れました」

加藤さん「お、じゃあとで見せてもらおうかな」

加藤さん「社長は車を取りに行ったから出口で待ってようか」

僕「はい、」

加藤さん「本当に晴れてよかったね」

僕「そうですね、いい天気ですね」

加藤さん「オワリ君は雨の日はバスでオフィスへ行くの?」

僕「はい、家のすぐ近くのバス停から一本です」

加藤さん「それはいいね」

2人で出口へ向かうと、林さんの車が見えた。車に乗ってオフィスへ向かう。

林さん「いいの撮れた?」

僕「はい、まぁまぁ」

林さん「楽しみだな」

自分で撮った写真を見せるのは少し恥ずかしい。褒めて欲しいわけではないけれど、微妙だったらどうしようかな。と言う気持ちがある。オフィスに着くとパソコンを渡された。

林さん「ここに送って見せてよ」

写真を選んで送っている間に2人はコーヒーを淹れてこちらに戻ってきた。

林さん「うん、やっぱいいな」

加藤さん「オワリ君、どれもいい写真だよ」

ーーーーお世辞でも褒めてもらえて嬉しい。

僕「ありがとうございます」

林さん「オワリ、加藤にコラージュ教えてもらって今日はそれを3つ作ってみて」

僕「わかりました」

加藤さん「コラージュはわかる?」

僕「はい、大体、なんとなくわかります」

加藤さん「うん、そんな感じでいいからなんとなくで作ってみて」

加藤さん「わからないことがあったら、声かけてね」

僕「はい、ありがとうございます」

それから、撮った写真をプリントして切ったり貼ったりしてみた。コラージュは前にゆきの家にあった画集で見た事があった。ゆきも作っていて漫画を読みながらゆきの姿を見ていたから作り方もなんとなく知っていた。だから3つが完成するのはとても早かった。

僕「加藤さん、終わりました」

加藤さん「はやっ、見せてみて」

僕「お願いします」

加藤さん「おぉ、なかなかいいよ。オワリ君」

加藤さん「結構いいよ、本当に」

林さんがやってくる

林さん「もう出来たの?」

加藤さん「なかなかいいですよ」

林さん「いいじゃん、これ網点にして版にしてみなよ」

加藤さん「奥に無地のTシャツがあるからそれに刷ってみて」

僕「やってみます」

林さんにパソコンをもらい、作ったコラージュをスキャンして網点にした。それからシルクスクリーンの版の作り方を加藤さんに教えてもらい、Tシャツにプリントした。初めて作ったTシャツ、何箇所か滲んだり擦れてしまったけれどかっこいい。記念に着て写真を撮ってもらった。

林さん「オワリ、今週の土日にイベントがあるからそこで売ってみなよ」

僕「売れるかなぁ」

加藤さん「出てみる事が大切だよ」

林さん「売れる売れないは気にするなよ、売れたらラッキーくらいに考えてとりあえず金曜日までに30枚作ってみな」

僕「わかりました、やってみます」


続く



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