えもーしょん 大人篇 #37
温泉の方へ
2016~/カイト・大人
Contributed by Kaito Fukui
People / 2020.07.07
小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!
#37
「温泉の方へ」
(2016~/カイト・大人)
蒸し暑い、梅雨の夜。
ボクはうなされていた。
幾度となく、寝返りをしても
枕の位置を変えて見ても
ベストなマイポジションが見つからない。
が、そんなことではない。
うなされているのは
肩こり、腰痛のせい。
何かの、誰かのせいにはしたくはないが
こればっかりは、しょうがない。
とにかく、酷い。
腰痛は、足の裏に冷や汗が出るほど
痛く、そして生まれたての小鹿のように
足に力が入らない。
肩こりも、酷い。
肩甲骨の下あたりから
肩にかけて、凝り固まっているような…。
さらには、肩こりのせいか
頭痛が、治らない。
朝、目が覚めると
第一声は決まっている。
「あったまいたい」
「肩痛いし、腰痛い」
隣で寝ている、彼女が
「また? 病院行きなよ」
と、寝ぼけたまま適当に返してくれる。
ボクは、はーはー言いながら。
「頭痛い…肩痛い…腰痛い…」
彼女は、少し呆れた様子で
「大丈夫?」
「痛いって言われても、なにもできないなぁ」
と、彼女が言った。
そのまま、気絶したかのように
昔のことを思い出していた。
小学生の頃の、接骨院に通ったことだ。
「あぁ、腰痛いなぁ…」
結局、腰が痛くて目が覚めてしまった。
時計を見ると
AM11:00
「お〜結構寝た〜」
起き上がると、彼女が洗い物をしている。
「どう? 大丈夫?」
洗い物をしながら振り向く彼女。
「うーん、やっぱり痛いなぁ」
「どこ?」
「肩と、腰と、頭が痛い…」
「えー? そっかぁ」
「なんだろうねぇ、
外に出てないからじゃないの?」
「出てるよ〜だって、スーパー行ったもん」
「スーパーじゃダメだよ、もっと遠くに行かないと」
「例えば…?」
「うーん…、北海道とか? 沖縄とか?」
「随分極端だねぇ」
「そう? どうせ行くならどっか行かないと。遠くの方へ。」
またか、
と呆れた様子で食器を洗う彼女。
起きても寝ても治らない頭痛と戦うボク。
ふと、
テレビから温泉の成分効果が目に入る。
そこには
肩こり、腰痛、疲労回復。
彼女も観ていた。
「これいいじゃない」
洗い物を終えた彼女がやってきた。
「これ良さそうだね」
「行く?」
嬉しそうに彼女が言った。
行きたいけど、行くまでに倒れちゃいそう。
そう言うと、
彼女は少し怒って、
「もう初老じゃない」
と言った。
初老…。
この言葉がボクを突き動かした。
生まれたての小鹿のように力の入らない足で
なんとかヨロヨロ歩きながら、
クローゼットを開けて、
大きめのトートバッグを取り出す。
Tシャツ3枚
パンツ2つ
靴下3足
自分の荷物を入れ終わると
トートバッグを彼女の方へ。
「ドライヤーがなかったらどうしよう」
と、彼女はドライヤーまでもっていく気だ。
「準備オッケー」
彼女が笑って言った。
続く
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Kaito Fukui
1997年 東京都出身 幼少期から波と戯れ、サーフィン、スケートボード、恋に青春。 あの時、あの頃の機微を紡ぐように幾層ものレイヤー重ね描き、未来を視る。 美化されたり、湾曲、誇張される記憶を優しく繊細な浮遊感で!