『Ray BEAMS』のセパレートトップス

Just One Thing #62

『Ray BEAMS』のセパレートトップス

仁科日花(美容学生)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2024.09.05

街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#62


静岡市内の美容専門学校に通い、美容師を目指している仁科日花(ニシナハルカ、以下ハルカ)。日々の授業に加え、コーヒーショップ『Hug Coffee』と居酒屋、そして美容室でアシスタントのアルバイトを掛け持ちする多忙な毎日を送る。真夏の土曜日、まだ明るい夕方5時、静岡市にある彼女のお気に入りだというカフェで待ち合わせ、インタビューに応じてくれた。

「今日はこの後居酒屋でバイトです。最近はアルバイトがほぼ毎日あって、動きやすい服を着ることが多いかも。デニムが好きで、ほぼ毎日履いてますね」



この日のハルカは蛍光イエローのトップスに黒のプリーツスカート、そしてここ最近のお気に入りだという斜め掛けの黒いクロスを身に着けていた。

「トップスとセットになっていて、セパレートでも使えるので、これ単体で使うことが多いかもしれないです。斜めにして着けることが多くて、 なんかちょっとTシャツ1枚じゃ物足りないなって思って、付け足しました」

Tシャツをハイトーンの髪色と近いトーンで合わせて、それ以外は黒で統一したスタイル。このクロスを身に着けるか決めるのは、その日の服を決める最後。出かける前に鏡を見て、何か物足りなくて手に取ることが多いという。

「特定の系統とかブランドが好きっていうよりは、色々な服装をします。どこかに派手な色を入れる服が好きです」

もしかしたら、服を買うときもあまり店員さんに相談しないんじゃないか。どういう服が着たいかは彼女自身が一番わかっている。他の誰かに聞く必要はない。
一言でいえば、彼女は自分の行動を他人に預けない人なんだと思う。それが例え憧れの存在であっても、経験が彼女より勝る相手であっても。自分で着るものは自分で決めるし、自分でやりたいことは所謂“王道”ルートでなくてもやってみないと気が済まない。

たとえば、ハルカの将来像も、どんなお店をやりたくて、どんな美容師になりたいのか、かなりはっきりと決まっている。

「美容師っていうより、なんかサロンを作りたいなっていう気持ちがあって。なんか、今あんまりないようなサロンを作りたいんですよ。それこそアパレルが一緒にならんでいるお店を想像しています。自分が独立するのは多分10年後とかだから、オープンするときには流行りとか変わっちゃってるかもだけど......。昔から、何かと美容室みたいな、髪切るだけじゃないサロンを作りたいなっていうのあるんです」

学校に通いながら一見美容師と関係なさそうなアルバイトを掛け持ちしているのも本人の中では、そこに繋がるプロセスだ。



「高校生の時から『Hug Coffee』で働いてみたかったんです。ラテアートができるようになりたかったのと、あとはお店にはいろいろな仕事をしている人が関わっていたから、人脈もできるかなあって。それから、居酒屋で働き始めて、美容室のアシスタントも。今の学校に入って、知り合いの美容師さんにサロン以外でもバイトするように勧められたんですよ。接客業はオペレーションが似てるから、違う業種を経験して、サロンワークに生かした方がいいよ、って」

ハルカ自身がやりたい美容室の姿をその人に伝えていたのかは不明だが、“髪を切るだけじゃないサロン”をやりたい彼女にとって必須科目といっていい。今働いている場所も、数ある中から彼女が選ぶということは、美容室以外なら何でもよかったわけではないだろう。

「自分がそれやってるのが想像ついたらやる、直感です。『Hug Coffee』も、居酒屋も。今働いている美容室も、しっかり選ばなきゃなあ......とか迷ったけど、その時、すごいやる気があって。勢いで何も考えずに教えてもらった美容室を受けました。他の美容室とか探してないんですよ」

直感。ハルカの場合、この言葉だけで片付けるのは、少し足りないように思う。意識しているかいないかはさておき、少なくとも彼女は相当に考えた選択をしている。少なくとも、行き当たりばったりではない。
自らの意思での選択が常に当たり前であり、且つそれを凄まじいスピード感で選択できるがゆえに、他人に言葉で説明する必要がないのかもしれない。それこそが彼女の持つ非凡さだ。

「今私が働いているところも、私がイメージしている、自分でやりたいヘアサロンとはまた違う雰囲気なんですよね。住宅地の中にあるんですけど、中高年のお客様が多くて。普段関わらない年齢の人に触れる機会があるお店なんです。そういう経験ができるのは、今しかないなと思っていて。卒業して働くサロンではできないような接客経験として持ってればいいかなっていうのがあって」



美容師になろうとするときに、憧れの人のお店や好きなスタイルのお店へ入るのが王道ルートかもしれない。本人なりの考えというよりは、「わからないからとりあえず憧れの人に一番近い道を行く」という人も多いだろう。それは決して間違ったことではないが、ハルカの場合、既に誰の真似でもない自分なりの選択を見つけているということだ。例えば、彼女がめっちゃやりたいスタイルそのまんまの美容室があったとして。 そこで働くことがハルカの将来像から逆算した時、そこに行くのが今ではないと判断している。

「静岡でサロンを作りたいなっていう気持ちがあって。静岡だとやっぱあんまりこう、派手な髪の子もあまりいないし、歩いていてもチラって見られるかなくらいの感じながら過ごしてきたので。もっと、この街を盛り上げてみたいなって。だから、ちょっと変わったスタイルも含めて、その人に一番合っているスタイルを提案できるようになりたいです」

ファッションにせよ、美容師としてのキャリアにせよ、彼女の中で“なりたい自分”は既に決まっている。だから、そこに向けて足りないものを追い求めていくことが彼女の行動動機になっている。

鏡を見て、何かが物足りないとき、身に着けるというお気に入りのクロスも、理想の自分自身を叶えるためにふとハマるひとかけらなのかもしれない。学生として勉強を続けていて、これから卒業して、美容師としてのキャリアを積んでいく。その過程でハルカにとっての“なりたい自分”は変わっていくかもしれない。それでも、彼女の心を突き動かすものはこの先も変わらないんじゃないかと思う。







仁科日花(美容学生)
静岡県静岡市出身。現在は静岡市内の美容専門学校に通いつつ、美容師を目指している。アルバイトを3つ掛け持ちする多忙な日々の中でも休日は友人たちとの時間を大切にしたいとのことからほとんどの時間を外で過ごす。
Instagram:@lu_62peso

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