えもーしょん 大人篇 #47
初上陸
2016~/カイト・大人
Contributed by Kaito Fukui
People / 2020.07.21
小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!
#47
「初上陸」
(2016~/カイト・大人)
隣の席に座るおじさんの貧乏ゆすりが止まらない。
シートが繋がっているので
ボクのシートも揺れている。
ドドドドドドドドドド。
最初は、飛行機が揺れていると思っていたが
全然違った。
ドドドドドドドドドド。
凄い、揺れている。
おいおい、落ち着けよ。
と、おじさんの顔を見ると
大量の冷や汗が…。
やばい、これはやばいぞ
パッと時計を見る。
着陸まであと35分。
ボクは知っている。
この、35分がどれほど微妙な時間か
自分のメンタルコントロール次第では
なんとかなる時間だが
一瞬の気の緩みが命取りとなる。
もちろん、オナラなんてしたら終わり。
ふぅ〜ふぅ〜ふぅ〜ふぅ〜。
おじさんの鼻息が荒い。
さっきまで、あんなに嫌いだったのに。
心のどこかで
「頑張れ! 頑張れ!」
と、応援してしまう。
それは、単におじさんへの同情だけでなく
漏らされたらちょっと嫌だ。
という、自己中心的な思いも含まれている。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ポーンポーン。
「間も無く着陸します」
と、CAさん。
「あと少し…」
苦しそうなおじさんの口がついに開いた。
「頑張れ!」
全米が応援している。
ぶぉぉぉぉおおおぉおぉん
飛行機は着陸し
誰かが勝手にベルトを外して
荷物を取り始めた。
すると、それを見ていた人も
続々とベルトを外し、荷物を取り始めた。
そして、彼も。
ベルトを外し我先にとトイレへ一直線。
ガン!
と、勢いよくドアを閉め
ガチャン!!!
と、みんなが振り返るほど
勢いよく鍵を閉めた。
しばらくして
シュボォォォォ。
と、流す音が聞こえると
スッキリした顔のおじさんが出てきた。
ボクの顔を見て、少し微笑む。
「お疲れ様」
と、ボクも微笑み返す。
荷物を取り、並ぶ人達を見ながら座っていると
「どうぞ」
と、おじさんが列を止めボクを通してくれた。
「ありがとうございます」
と、挨拶をしたのが彼との最後。
飛行機を降りると
ムンムン
ハッ! これが沖縄か!
遂に!
手荷物だけのボクは
預け荷物を待つ人たちを横目に
スイスイと歩いて行く。
出口を出ると、大きな植物。
東京とは比べものにならないほど
空が高く、雲が大きい。
「凄いなぁ」
思わず、立ち止まり
空を見上げる。
ボクの夏が、今始まろうとしている。
いや、始まった。
が、気がついた。
レンタカーを忘れていた。
「どうしよう」
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Kaito Fukui
1997年 東京都出身 幼少期から波と戯れ、サーフィン、スケートボード、恋に青春。 あの時、あの頃の機微を紡ぐように幾層ものレイヤー重ね描き、未来を視る。 美化されたり、湾曲、誇張される記憶を優しく繊細な浮遊感で!