複雑なこと、わからない

えもーしょん 小学生篇 #31

複雑なこと、わからない

2003〜2010/カイト・小学生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2020.05.18

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#31 「複雑なこと、わからない」
(2003〜2010/カイト・小学生)

9月は、なんかいい。

もう、終わった。

終わったんだよ。

夏は、もう終わったんだよ。

だって、9月だから。

もう、終わったの。

なんて、夏を引きずってしまうのは

まだ、まだ、残暑って言って

夏の気配を感じるから。

それでも、次に進まなきゃ。

って

そう言って、前を向いて

一歩、踏み出すんだ。

それが、9月。

夏休みが、終わって

今までの、自由が

うっすらと、目の前から

消えていく。

変な、不安がやってきて

見えもしない、緊張と

謎の、ドキドキで

目が覚める。

今日だってそう。

不安なまま、朝を迎えてしまった。

だから

ボードを抱えて海へゆく。

裸足で。

それしか、出来ないから。

「単純ね」

「そんなに、逃げたってやってくるのよ」

「かいとが、一歩進めば不安も秋も冬もみんな一歩進むのよ」

と、隣で歩くさやちゃんが言った。

「知ってるよ、わかってるよ」

と、ボク。

「じゃあ、どうして立ち止まって面と向かって戦わないのよ」

「みんな、逃げたくても立ち止まって、やってくる不安も変化も受け入れて戦うのよ」

と、さやちゃん。

「知ってるよ、でもボクにはこれしかないんだ」

「朝、どんなに怖い不安に起こされてもワックスを塗って、ビーチを歩いて波に乗るんだ」

「それしか、出来ないから」

「複雑なこと、わからない」

と、ボク

「そうね、かいとくん」

「君みたいに、暗い夜を迎えたって星達が暗闇を奪ってしまうような。そんな人でありたいよ」

と、クシャクシャな笑顔で

ボクを見るさやちゃん。

「ちょっと、よくわかんないや」

と、ボク。

小学校6年生にもなると

やっぱり

女の子は、夏を越えるたびに

大人になっていくのかもしれない。

「暗い夜を…星が……星が…奪って…???」

ボクには、まったくわからない。

ぽかーん。と海を見つめるボクに

「見てるね」

さやちゃんが言った。

「うん、ちょっとやってくる」

リーシュをつけて、沖へ向かう

振り返ると、嬉しそうに

さやちゃんは、笑っていた。


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