『REGAL』のローファー

Just One Thing #57

『REGAL』のローファー

高橋蘭(ショップスタッフ)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2024.06.13

街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#57


「もうこれ、誰が見ても私のだってわかりますよ。私の足の形だから(笑)」

履き込まれたコインローファーは底がすり減ってクタクタになり、ちょうど彼女の足をかたどったかのように変形していた。丸くなり、角が取れた姿はなんだか子犬のようで可愛らしくもある。

原宿の老舗古着屋『シカゴ』で働く高橋蘭(タカハシラン、以下ラン)が長年履き続けてきたお気に入りの一足は、『REGAL(リーガル)』のものだ。ウェーブした髪、チェック柄のスカートと白いノースリーブ、透かし編みのカーディガンを合わせた着こなしはどこか90年代のアメリカ青春ドラマに出てくるスクールガール風。というのも、この一足を履きだしたのは、実は彼女がまだ制服を着ていた時のことだという。



「高校生の時から履いています。学校に履いて行く用にお母さんが買ってくれました。色々なことに詳しい人なんですけど、『とにかく、これがいいから!』って勧めてくれて」

日本を代表するレザーシューズブランドの『REGAL』。決して安い値段ではないし、大人になってからも履ける本格的な革靴だ。高校生にしては随分贅沢な買い物だと思う。且つベーシックなコインローファーというのもいい。きっとランの母親は、彼女が今もこうして履いていることを見越していたんだろう。

「結構、1年単位で好きな服が変わるから、学生時代は今と全然違う合わせ方をしていたかも。スウェットとか、ブレザーとか……カジュアルなものを着て、当時の“THE 古着”って感じだったと思います」

好きなテイストが変わっても馴染むベーシックなデザイン。そして、履き込むほどに変化していく革靴は、長く履く中でそのスタイルに合うようになってくる。ランに関していえば、特にその変化が激しい。ファッションのテイストはもちろん、この一足を手に入れた当初とは生活環境も大きく変わった。



「就職活動をするつもりがなかったし、全然準備もしていなくて(笑)。学生時代に行ったニュージーランドがすごく自分に合っていたから、大学を卒業したらすぐ行っちゃおうかなって思っていました。ただ、当時はコロナでワーホリが行けない時期で、行けるようになるまで原宿の『シカゴ』で働いていました」

晴れてニュージーランド行きが叶い、オークランドで1年間のワーキングホリデーを過ごした。その直感に狂いはなかったようで、実はこのインタビューを受けてくれた数日後にはまたニュージーランドへ向かうという。何がそこまで合っていたのか。

「やっぱり、のんびりしているところですかね。出身は岩手県なんですけど、大学で東京に出てきて、疲れてしまったところがあって。なんか余裕がないなあって思ってしまうから。楽しいこともいっぱいあったけど、真逆の環境に身を置いたらそこが凄く居心地がよかったんです」

ワーキングホリデー中はオークランドの古着屋で働いていたというラン。正直なところ、ニュージーランドとファッションのイメージはあまり結びつかない。東京の中でも、特に人と物が溢れかえる原宿の古着屋とは、色々と事情が違いそうに思う。

「やっぱり古着屋の数は多くなかったけど……働いている人が本当に面白い人ばっかりでした。人柄もだし、人生経験も。一番印象に残っていたのは、休憩時間になると毛糸でニットを編んでいる人がいて、それも何人か。自分でブランドをやっていたり、そのお店とは別で古着を個人で買い付けてオンラインで売っていたり」

各々が好きなことをやる余白がある環境。それこそがランが惹かれた現地の「のんびりした」空気といえる。働きながらでも、別のやりたいことがある。目標を叶えるために行動はしたいけれど、あくまで動機が自分軸だから、他人と比べて生き急ぐようなこともしない。

「私自身が知らない世界を知っている人と出会うのが一番刺激になって楽しいから、そういう環境を求めているのかもしれないです」

彼女自ら語るように、まだ知らないことや出会ったことがないような人への好奇心が動機となることが多い。ラン自身がやってみたいこと、行きたい場所を挙げるときに必ずしも彼女の経験したことに留まらないのがその証だ。



「今は文章を書くことに興味があります。あとは、手を動かして何かを作ってみること。次の仕事は日本人向けの現地メディアに応募してみようと思っています」

社会人になって「やりたいことがわからない」という人に会うことが多い。そうでなくても、ランほど常に新しくやりたいことが見つけられる人というのは稀有なケースだろう。というのも、だんだん人がやろうとすることは自らの経験やスキルの範囲内で決めることが増えていくからだろう。全く未経験だったり、見当もつかなかったり。そういうことを面白がれるマインドこそ、彼女の原動力になっている。

ニュージーランドでの経験は、彼女のファッションにも強く影響を及ぼしたようだ。元々90年代のアメリカ映画やドラマが大好きだというラン。言われてみればその影響が垣間見える。ただ、このスタイルが完成したのは最初のワーキングホリデー中だったという。

「ドラマの中の登場人物が可愛いのはもちろんなんですけど、あの頃のドラマって着ている服がそのキャラクターを表現していたイメージがあって。その人自体がファッションになっているのが素敵だと思うんです。逆にファッションビルの中を見ると、似たような服が並んでいたり、みんなが似たようなファッションをしてたりするのを見たら、私は違うかなって」

売れているもの、流行っているもの、単体で見栄えがいいもの。そういう他人の物差しではなくて、あくまでファッションはその人を表す一部。そう考えるようになったのは、やはりニュージーランドで出会った自身のスタイルをそれぞれのペースで追究する人たちの影響がある。

古着屋やおしゃれなショップの数は東京より少ないからこそ、他の人が何を着ているかとか、何が流行っているかはあまり関係がない。各々が好きな服を着て、自分の見せたい自分ややりたいこと、好きなことを全身で具体化する。

最近は身体のラインがはっきりと出る服を好むことが多いラン。ファッションを通して見せたい自分の姿、やりたいこと、考えていること、好きなことを表現する。それができるからこそ彼女に影響を与えたような魅力的な人との出会いがあったのだろう。

履き込んで形が変わったローファーも、間違いなくランにしかできないスタイルだ。まだ今のスタイルが固まる前から履いていた靴は、当時とは違う姿になっている。これから更に履き続けて、どんな姿になるのだろうか。すり減り過ぎて、穴が開きそうなソールは、修理した方いいような気もするけれど……。


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高橋蘭(ショップスタッフ)
岩手県出身。原宿の古着屋『シカゴ』での勤務を経てニュージーランドでのワーキングホリデーを経験した。2024年6月からビザを取得し、再びニュージーランドへ。
Instagram:@phalaenopsis_0rchid

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