自分

海と街と誰かと、オワリのこと。#45

自分

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.03.23

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


個展2日目の朝、硬い床で寝たせいか腰が痛くて目が覚める。2人を起こして、昨日の下着とTシャツを持ってコインランドリーへ向かう。3人分まとめて洗濯乾燥機に入れ45分と表示を確認し定食屋さんへ向かった。

定食屋さんに入ると、「今日は猛暑日になりそうです」というお天気キャスターの声が聞こえた。蕎麦かうどんか出汁のいい匂いがする。席に座ったとき、今まで何か会話をしていたか僕たちは無言で考えていた。一番最初に頭が動き出したジンが、「おはよう」と言った。大分疲れが溜まっているようだった。

僕「何にする?」

オサム「おすすめは?」

僕「力うどん。これうどんにお餅入ってるんだよ」

オサム「お餅かぁ、まだ顎動かないな」

僕「だよね、昨日アジフライ食べたけど美味しかったよ」

オサム「それにしよ」

ジン「俺も」

店員さんと目が合い、こちらにやってくる。

僕「アジフライ定食3つお願いします」

店員さん「まだ、アジが届いてないのよ。ごめんね」

僕、ジン、オサム「じゃあ、エビフライ定食。。」

と、あるかどうか探りながら聞いた。すると「あるよ」と店員さんがニコリと笑って戻っていった。
それからは再びテレビを無言で眺める。「今日は暑いのかぁ」と2人の心の声が聞こえたような気がした。

エビフライ定食が届くと、オサムがこんなにボリュームがあるのか!と驚いた。オサムは定食を食べたら目が覚めたようでいつものように、僕とジンに仕事の不満をポロリと吐き始める。彼は僕やジンと比べるとクライアントワークが多い。と言うよりもほとんどがクライアントがいる仕事をしている。そんな中で、仕事を依頼するときや仕事中は仲良く接してくれていたクライアント側の人達が仕事が終わった瞬間冷たくなるのが寂しいらしい。ジンがよくわかる、と共感していた。たまに仕事後もお手紙や差し入れが事務所に届くこともあるらしく、そんな人達を大切にして行ったらいいんじゃない?とアドバイスしていた。

2人の会話をへぇ〜と聞きながらゆっくり食べていると、僕が食べ終わるまで待っていることに気がつき急いで豚汁を飲み干した。お会計をして外に出ると既にとても暑かった。「これは大変だ」とジンが言った。

僕「先に戻ってて、洗濯物取ってくるよ」

2人は頼む!と言って小走りにギャラリーへ向かった。炎天下の中、コインランドリーへ向かう。一瞬なんとなく立ち止まってみるとおでこからじわじわと汗が出てくることを感じた。ごおぉぉぉぉぉと洗濯機が動いている。昔ながらのコインランドリーにはもちろんエアコンはない。1人汗だくになりながら洋服を抱え道を歩いていると先頭の前にジンとオサムが立っていた。

ジン「水風呂浴びていく?」

オサム「もう、この暑さはやばいだろ」

そうだね。と言って朝風呂を浴び、ようやくギャラリーへ到着。
ギャラリーに着くとなれたようにゲストの飲み物や食べ物を注文したり並べたりする2人を見て本当に恵まれていると感じた。僕はジンのようにうまく人付き合いが出来ないから個展もしなくていいしいつものように楽しく過ごせたらそれで十分だ。と2人で話していた日が懐かしい。ジンとオサムのおかげであの時よりももっともっと、想像できないほど今が楽しく感じる。


続く



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