台風

Emotion 第19話

台風

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.08.09

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第19話

お天気キャスター「発達した台風9号は、非常に強い勢力を保ったまま関東に上陸しています。厳重な注意が必要です」

ハワイから帰国したカイトのマンションに着いた途端、雨風が強くなり瞬く間に嵐となった。窓から外の道路を見ていると、10分間の間にゴミ箱が3つ飛んでいた。どうやらこれからしばらくの間、台風は関東に停滞するらしい。全く、困ったもんだ。

この散らかったカイトの部屋で一夜を過ごさなければならない。

カイト「まぁまぁ、ゆっくりしていきなよ。この天気じゃどうせバイトも休みだろ」

終わった…。なぜか、彼には昔から変な力がある。高校生のとき、雪の予報は全くなかったのに突然「明日は雪だ、電車は走らない」と言った。だから、今日はゲームセンターでマリオカートをやろう。と翌朝、窓を開けると銀世界だった。

先程、彼は僕のバイトが休みになる。と言ったほとんどの確率で休みになるだろう。彼はそういう人間だ。無理に動こうとせず、外に出ることが出来ない今は流れに身を任せる方が楽しいかもしれないと思った。

それから数時間、シーフードヌードルをすすりながら海外ドラマをひたすら見ている。そろそろ腰も背中も首も痛くなって来た。このままだと頭痛に襲われる流れだということはすぐにわかった。彼がドラマに夢中になっている間に話しかけられる前に寝てしまおうとゆっくり目を閉じた。

ゴンッ!ガン!ゴンッ!!!

頭上で何かが倒れた音がして目が覚める。わずかな視界で捉えたのは僕の自転車だった。なぜか逆さまになって、カイトがオイルを差している。

僕「何をしている」

カイト「準備」

僕「何の」

カイト「旅の」

僕「どこに行くの」

カイト「夏に自転車で旅と言えば、日本一周だろ」

僕「バイトあるから行けないよ」

カイト「大丈夫だよ、雨漏りで店しばらく閉めるって」

僕「誰がそんなこと」

カイト「メッセージ来てるよ」

携帯を開くと、バイトのグループチャットに店が雨漏りで水浸し。電化製品は全く動かずパン屋なのにオーブンが壊れたようだ。1ヶ月は閉めると連絡があった。

カイト「どうするの」

自転車のペダルを回しながら彼は言った

僕「行ってみたい気持ちは正直ある、でもあんまりお金ないから心配。野宿はしたくない」

カイト「宿代と、飯代は出すよ誕プレ」

僕「なるほど、それは魅力的」

僕「あとは、達成出来るかどうかの不安よりも自分が心折れるかどうかの不安の方が大きいんだが」

カイト「途中リタイアは許さないぞ」

僕「だよね」


続く



アーカイブはこちら

Tag

Writer