山

Emotion 第34話

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.09.05

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第34話

海から上がり、ホテルに戻ってペットボトルの水を一気に飲み干した。編集部からのメールを確認してゆっくりしていると、子供が海で焼きそばを食べている姿が見えた。海で食べる焼きそばは冷たくても美味しいよな…とお昼ご飯は何を食べようかと考える。ロビーへ向かい柔らかいソファに座り再び海を眺める。

携帯で2行ほど原稿を書いては、カップにコーヒーを注ぐために立ち。また、2行ほど書いては席を離れ海を眺める。特に何も浮かばないので再び席に戻るが、やはり何も浮かばない。ため息と深呼吸の間の一息を何度もする。これは、肩凝り防止の為でもある。

パタパタとビーチサンダルの音が聞こえ、それは何となくカイトだと思った。振り向く必要もないと感じたのでボーッと海を眺めている。

カイト「お待たせ」

僕「全然」

カイト「大丈夫?」

僕「何が?」

彼は僕の服装を見て、心配しているわけではなく後々何か文句を言われないためにとりあえず今、大丈夫? と聞いたように思えた。

カイト「いや、何でもない。行こうか」

ホテルを出て真っ直ぐ道を進むとすぐに山に続く道に変わる。その道を真っ直ぐ歩いて行くと、どんどん細く道路は凸凹になり雑草も多くなってくる。彼はマップを見ることなく、少し前に見たみかん農園の看板を頼りに進んでいるようだ。

カイト「多分、これだよな」

僕「着いた?」

カイト「あ、もう少し上か」

山の斜面をコンクリートで埋めて、なんとなく階段になるように窪みをつけた段差を慎重に登るとさっきまで過ごしていたホテルと海が見えた。

僕「随分登ったんだね」

カイト「な、」

こんにちは。と後ろから声が聞こえた。振り返ると1人のおじいさんが先程の階段を一つ飛ばしで登ってくる。どう考えてもここの人だとすぐにわかった。

カイトがおじいさんと話している間にみかんが実っている木を観察しながらニューサマーオレンジを探す。僕らが登って来た山の反対側の斜面には綺麗にみかんの木が並んでいた。少し遠くに黄色い実が見える、きっとあそこがニューサマーオレンジの場所だろう。

カイトとおじいさんがやって来て、3人でニューサマーオレンジの場所へ向かう事に。途中、これは何の種類で…と沢山教えてくれたがそれらはきっと甘いだろう。と全然頭に入って来なかった。

到着して、振り返るとやはりさっき見た場所だった。収穫は終わったから好きなだけ持って行っていいよ。とおじいさんは言ってくれたがそんなに多く食べたら嫌いになりそうだ。と少し足りないくらいの数を頂いて入口で販売していたニューサマーオレンジのジュースを買って僕らは山を降りた。

ホテルに着いたら部屋でゆっくりしようと思っていたが、到着する前にカイトがボードを持って来るからこのまま先に海へ行っていてくれ。と言い右手のニューサマーオレンジを思うと断れず海へ向かった。

気がつくと、風は止んでいてちょうど潮が引き始めて先程よりも良い波になっている。きっとあそこから乗れば良さそうだ。と海に入っているサーファーが羨ましく思えた。


続く



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