明るい夜

海と街と誰かと、オワリのこと。#31

明るい夜

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.02.28

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


うどんを食べ、さきがよく行くという本屋さんへ向かうことになった。4階建ての大きな本屋さんは、昔のファッション紙や国内外の画集が多く揃っているらしい。本屋さんに着くと彼女は探し物があると言って、目的のジャンルの棚へ向かった。見つかるまで声をかけない方がいいと思い、近くに並んだ雑誌を手に取りパラパラと眺めていた。

ーーーーこの雑誌にも、この雑誌にも。。。。

入り口近くの手に取ってめくっていた雑誌は昔の雑誌ではなく、新しい雑誌だった。古くても去年の夏ごろの号なのでここ1年分くらいが並んでいたが、ほとんどさきが載っていた。ジンがめっちゃ有名。と言っていたけれどそれは彼の周りでは有名ということだと思っていた。

さき「お待たせ。何見てるの?」

僕「全然、適当に見てたんだけどさき凄い出てるね」

さき「まぁねぇ」

僕「欲しかったものは買えた?」

さき「バッチリ」

僕「このあとはどうしようか」

さき「東京タワー行く?」

僕「めっちゃいいね。行こう」

さき「よし、行こう!」

僕らは本屋さんを後にし、東京タワーへ向かった。電車が空いていたので当然のように空いている席に座ったけれど、彼女が隣に座っているせいで全然寛ぐことはなかった。彼女はほのかにいい匂いがした。電車が発進するたびに彼女は明らかに僕にもたれないよう、踏ん張っているけれど電車が発進したり、止まったりするたびに彼女の膝が一瞬僕の足に当たった。その度に僕は童貞の中学生のようにドキドキした。

ーーちょうど夕日が沈もうとしていた。
エレベーターに乗って僕らは上に上がりながら夕日が沈んでゆく姿を見ている。

さき「綺麗だね」

東京タワーのオレンジ色の明かりに照らされたさきが言った。

僕「そうだね、こんなに綺麗な夕日は引っ越してから初めてみたよ」

目黒通りをまっすぐ照らす夕日も好きだけれど、ここから見える夕日は特別に感じた。

続く



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