THE AMERICAN VINTAGE FURNITURE / UNKOWN STORY-#2

戦闘機が家具に?!

Photo & Text : ACME Furniture

People / 2018.07.24

35年にわたりアメリカを中心としたヴィンテージ家具を取り扱い続けているファニチャーブランド、ACME Furniture。

昨年出版された『THE AMERICAN VINTAGE FURNITURE』は、そんなACME Furnitureがこれまでに買い付けてきたアイテムがずらりと並んだブランドの歴史を感じることができる一冊だ。

本連載では本誌では語られなかった、アイテムのバックストーリーを紹介していく。

第二回目は、「アメリカ軍戦闘機を家具に作り変える」というお話。


Introduction:Aircraft Parts

アメリカのフリーマーケットでは稀に、飛行機の翼やプロペラなどの「部材」だけが売られていることがある。普段あまり見る機会が無いのだが、間近でじっくりと見回してみると、精密な設計の元、高度な技術によって製造されたプロダクトだということがよく分かる。この部材を使って何か家具に作り変えることは出来ないかという好奇心から、試しに翼の部材を購入。翼の形状を活かしたカスタムソファを製作してみたところ、想像以上にかっこよく仕上がった。そこで、より多くの飛行機部材を求めて、入手できる場所を探したところ、アリゾナ州に「飛行機の墓場」と呼ばれる場所があるという情報が。さっそくロサンゼルスからトラックに乗り8時間かけて現地に向かう。そこには広大な砂漠の中に戦時中実際に使われていた軍用機の残骸が無数に並べられていた。現在もアメリカ軍によって管理されているこの場所で、飛行機部材を売ってもらうことが出来た。家具として使えそうな部位を指定してその場で切り売りしてもらう。まるで肉や魚の美味しそうな部位を切り売りしてもらうようだ。トラックの荷台に飛行機部材を乗せられる限り満載にして、再び砂漠の中のフリーウェイを長時間走りロサンゼルスに戻る。



切り取られたエンジンパーツ。 剥き出し状態の造形美に男心がくすぐられる。



飛行機本体の周辺に機体パーツや備品などが並べられている。この中から家具として使えそうな部材を探す。



Item 01 : Rocket Ornamentc



アメリカ軍戦術空母C-130の主翼下に付いている燃料タンクパーツは、全長6メートル以上あり大きなロケットのような形状をしている。この巨大な物体を垂直に自立させるため、特別に製作した土台の中央部に先端を固定させて尾翼側と土台の四方をワイヤーで張る。ディスプレイテーブルとしても使える巨大なロケットオブジェが完成した。この燃料タンクパーツもそうだが、飛行機本体の大部分はジュラルミンというアルミニウムよりも耐久性の高い素材によって作られている。ジュラルミンとは、アルミニウム、銅、マグネシウムなどを混合した特殊合金で、第一次世界大戦の最中に発明され現在までに飛行機などの乗物や建築材料、旅行用のトランクなどの素材として使われている。とても軽くて頑丈であるため家具の材料としても最適な素材なのである。

Item 02 : Lounge Table



現在までに数多く製作してきたのがこの写真のようなテーブル群。飛行機の先端や尾翼パーツに特製の脚を底に取り付けてトップにガラス天板を乗せる。決して使い勝手の良いテーブルとは言えないが、ジュラルミンの無骨な素地感と飛行機部材の面影を残した造形美が魅力的なプロダクトであることは間違いない。飛行機パーツのカスタム家具を作る工程の中で一番大変な作業は、パーツ表面に厚く覆われている塗装を剥がすことだ。本体表面に剥離用の溶液をハケで満遍なく塗りつけていくと次第に塗装の表面皮膜が気泡状に浮いてくる。その箇所をヘラで擦ると、塗装が剥がれてジュラルミンの素地が顔を出してくる。しかし、たいていの戦闘機は耐久性の高い塗料が施されているため、強力な剥離剤を何度塗りつけたとしてもなかなか剥がれてくれない。剥離剤、ラッカーシンナー、ワイヤーブラシ、スチールウールや鉄ベラなど、様々な溶剤や工具を使って長時間掛けて全体をジュラルミンの素地状態にする。根気が必要な作業を重ねてようやく仕上がったアイテムのひとつだ。

Item 03 : Wing Sofa



テーブルの他にも、現在までに様々なパーツを採用して多くの飛行機のカスタム家具を製作してきた。その中でも翼のパーツを使った躍動感のあるカスタムソファは多くの顧客様に愛され、特注製作の依頼も数多く頂いた。日本国内だけでなくアメリカ国内の企業や一般顧客様からも注文を頂くようになり、ホテルやショッピングモールなどの公共施設で使うベンチやオフィスで使うデスク、家庭で使うためのダイニングテーブルなど、使用場所や用途に合わせてカスタム製作を行った。稀に見る個性的なプロダクトであるが、アメリカのインテリア空間には不思議と自然に溶け込む。戦争のために製造された戦闘機を家具に作り変えて再びアメリカ国内に納めるという皮肉じみた恩返しのようであるが、暮らしの役に立つ家具として再利用できるということは最高の喜びだと感じる。

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書籍『THE AMERICAN VINTAGE FURNITURE』制作秘話 前編http://container-web.jp/by/4393.html

書籍『THE AMERICAN VINTAGE FURNITURE』制作秘話 後編http://container-web.jp/by/4658.html

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Writer:
ACME Furniture  田中 健一郎
2004年にACME FURNITUREに入社。ヴィンテージ家具のリペア職人、バイヤー、商品開発担当を経て、現在はディレクターとしてブランド運営を行う。

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