MY FAVORITE MOVIE #1
生涯のパートナー
【銀平町シネマブルース】
illustration:moose coffee
People / 2023.04.05
僕と映画のお話。
このお話には長いドラマがあって、この先もきっと続いていく。僕が映画の中のキャラクターたちと過ごしてきた日々。『ありがとう』って気持ちを僕らしく伝えるためにも映画を誰かに繋げられたらいいな。
NOW SHOWING
【銀平町シネマブルース】
映画館。その場所は僕にとって特別だ。
中学生の頃、母の付き添いで鑑賞することになった『ローマの休日』で僕は映画に恋をした。はじめて見る銀幕の世界のロマンチックな輝き。中学生の僕にとっては早すぎるけど、この瞬間映画という生涯のパートナーを見つけてしまったのだ。そこからの駆け落ちスピードは速く、レンタルビデオ屋さんでとりあえず名作を借りては見るの繰り返し。高校生になると、好きになるきっかけになった映画館にアルバイトの面接をしに行った。そこではじめての映写室を前に「すごい!『ニュー・シネマ・パラダイス』の世界みたい!!」と大袈裟すぎるほど歓喜。ロマンチックな映画との出会いを話したことも効いたのか、その劇場に無事引き取ってもらえてからは、毎日が楽しかった。チラシを入れ替える作業も、スクリーンのチェックをするのも、ポップコーンの甘い匂いを嗅ぐのも、いつも来るおじさんにブランケットを貸すのも。僕にとってはご褒美だった。
一番好きだった瞬間は満員の劇場、封切りの瞬間を観客としてではなくスタッフとして前のスロープから客席を見上げた時。みんな少年少女みたいに目をキラキラさせて少し前のめりになっている。その光景は異常なほどの一体感と熱気で溢れていた。僕は上映されている作品を撮ったわけでもなければ、その劇場の支配人でもない。でも映画が好きな人でいっぱいになった劇場を映画が好きな第三者として見れた時、僕の望んでいた光景が広がっていることに嬉しくて涙が出た。
今考えると大好きな映画館で働けたことは、僕にとって映画好きを加速させる重要な出来事だったのかも。そこでのアルバイトをやめてからも映画に何か恩返しができないかと考え続けた。映画のファンZINEというものを作ってみたり、SNSで書き込んでみたり。今思い返してもいろんなことをしたなぁ。
でも結局のところ恩返しはしきれていない。映画には返す恩がありすぎて、きっと一生かけても返すことはできないだろう。でも少しだけ「恩返しできたかも」って感じることもあって、それはお酒の場で上機嫌になった僕が映画の話をしながら目をキラキラさせていた時。この姿を見て、みんなが「こいつ、本気で映画に恋してる」と面白がってくれて、不思議とそう思ってくれた人たちは次に会った時「この前の映画観たんだけど面白かったよ!」と言ってくれた。僕はその時に人を動かすのはやっぱり“素直な好き”なんだと感じた。だから映画に詳しくなくたっていいし、別に俳優さんの名前だって知らなくてもいい。好きな作品に対して“素直な好き”が垣間見える伝え方をした方がよっぽど魅力が伝わると。それで映画と僕の日常を綴った連載をスタートさせてもらえることに。
お気に入りの映画たちを愛でるMFM CULBという架空のCULBの連載『MY FAVORITE MOVIE』
しかし! いざはじめるとなっても「スタートダッシュは重要だよなぁ」と考えれば考えるほど何を書こうか出てこない。わかってはいたけど結局#1だけ後回しにして#6まで書いてしまった。最近は忙しくて前より映画館に行けていないし…。なんてまた言い訳。
でも今日は仕事も早く終わったし映画でも観ようかな。なんとなく呼ばれている気がして劇場に足を運んだのが正解だった! なぜって?? スタートダッシュにふさわしい、映画が好きな全ての人へ贈られた映画と出会ったから。僕は帰り道、この映画について書かないとダメだと強く感じて、そんな出会いができたことにまた嬉しくなった。そして思い出したのは、映画と出会ってキラキラしていた中学生の僕の姿。
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『銀平町シネマブルース』はその名の通り映画館で繰り広げられる群像劇で、銀平町の“スカラ座”という映画館に集う人々のお話。街の名前は違うものの実際に存在する映画館が舞台であるこの映画は、映画好き・映画館好きのための映画と言っていいだろう。あとはロマンチストな端くれ者のため??
登場するキャラクターはクセのある人ばかりで、実際に出会ったらきっと手に負えない。でもみんな“素直な好き”が垣間見える伝え方をするような人たちだった。中学生の頃の僕と一緒。“映画が好き”ただそれだけのピュアな気持ちを持ったキャラクターたち。僕はそこに魅せられて一瞬で作品の虜になった。そして映画のキーとなるホームレスの佐藤さんが劇中で言う言葉「金はあっても映画を観る心の余裕がなかった」。この言葉がスッと降りてきて「もっと自分が息のできる場所を大切にしないと」と教えてもらったのだ。その場所は、場所でなくたっていい。作品でもいいし、人でもいいし。でも一生をかけても出会えるかわからない生涯のパートナーに出会えたなら、それを手放してはダメなのだ。佐藤さんには他にもいろんなことを教えてもらって、悔しいけど5回以上は泣かされた。主人公の近藤と一緒で、彼に出会えたことが僕の原点に戻るきっかけだった気がする。
『おかえり。自分が大好きだった自分。』
こうして清々しく風を全身で感じられるようになった今、また映画を素直に愛せた気がした。劇中で描かれるのは、人とのつながりと場所とのつながり。何か心があるものとのつながりを通して、ちょっとずつ動いていく出来事を追ったストーリー。そして彼らの起点となったのが映画館。その場所で、僕も映画好きの誰でもない誰かと笑い泣きしながら鑑賞している。この贅沢な体験は、やっぱり今後も残していくべき財産ではないだろうか。
僕だってお金もないし経験もない。文字も拙く、特別何かが秀でた天才でもない。でも一つだけ生涯をかけて愛せるものがある。その感謝は自分が目一杯楽しむことで伝え続けきゃ。だからこの映画へ僕なりの感謝を込めて“合掌”。やっぱり『映画って良いよね、良いもんだよね。』
END
おまけエピソード
僕にとって大切な場所である映画館だけど、それと同時に映画の話をのんきにしたり、本を読んだり、僕にとって素直でいられる場所もなくてはならない重要な場所。嬉しいことに僕にはそんな場所があって、今回の素敵なイラストを描いてくれた“松田さん”のカフェ『moose coffee』が僕にとってのスカラ座のような存在なんだ。いつも何気なく始まる松田さんとの映画対談の時間はなくてはならない時間。今度松田さんとのお話もできるといいな。
moose coffee
〒210-0014
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TEL:044-246-5506
【営業時間】
平日:8:00-11:30 13:30-19:00
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