変わらないと

Emotion 第4話

変わらないと

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.07.14

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第4話

とりあえず、今日から妄想だけはしないようにしてみる。

ワールドカップで世間が盛り上がれば、エースストライカーになってスーパーゴールを決める自分を想像し。ヒーローインタビューのカッコいい一言を考える。日本人野球選手がメジャーリーグでホームランが何本とか。活躍するニュースを見れば、ヤンキースのユニフォームを着て場外ホームランを打つ姿を想像し。懲りずに完全試合までするピッチャーの姿を想像する。

テレビで好きなミュージシャンがライブをしていれば、自分が人気バンドのボーカルになっている姿を想像し。カッコいいギターの音が聞こえれば、ギタリストになってジミヘンみたいに掻き鳴らす姿を想像する毎日。

恥ずかし過ぎる。恥ずかし過ぎて誰にも言えないけど。こんな妄想してないと本当に挫けちゃいそうで。でも、妄想ばかりしていても結局そんな風にはなれないし。ただ時間だけが過ぎて結局何も出来ないまま1日が終わってしまう事。もういい加減いま辞めないと。

そう決意して、いざ外へ出たが電車の中でドラマの広告を見て気がついたら主人公になってる姿を想像している。想像しては腕を抓って。何回も何回も抓って、家に帰る頃にはアザになっていた。

「僕って何が向いていると思う?」なんて口が裂けても他人に相談したくなかった。誰かの意見なんて聞いたらもう負けだと思っていた。けれど、このままじゃずっと妄想ばっかりだし、何も出来ないし。何も進まない気がして友人のカイトにラインした。

「何でもできると思うよ」

彼は一言そう言った。そうじゃなくて、何が。が聞きたかった。こうやって誰かに意見を聞いてちょっとイラッとしたくなかった。

「ありがとう」

そう言って、今週も何も出来ないまま終わってしまった。


続く



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