太陽

Emotion 第47話

太陽

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.09.27

「唯一無二の存在になりたい」オワリと「計画的に前へ進み続ける」カイト。ありふれた日々、ふわふわと彷徨う「ふさわしい光」を探して、青少年の健全な迷いと青年未満の不健全な想いが交錯する、ふたりの物語。


第47話

東横線に乗って渋谷から副都心線に変わる電車に乗り換えて新宿三丁目にある映画館に到着したが、目当ての映画はすでに上映中だった。次の上映時間は吹き替え20:00。吹き替えはナンセンスだ。とカイトは言った。同感であった。都合の良い上映時間で近くの映画館はあるか調べ、新宿から京王線で一本。調布へ向かう。

電車に乗って少し恥ずかしい気持ちでカイトの隣に座った。カイトは1つ空けないんだ、と言わんばかりに少し間を空けた。こいつ、照れてるな。と思い少し笑ってしまった。

カイトの良いところは、電車に乗ったりカフェで話をしている時にスマホを触らない所だ。話に詰まって、話題がなければ黙ってお店の内装や照明器具をいつも見ている。今日も少なくなってしまった電車の広告を寂しそうな目で見ていた。路線によって広告の種類が違って面白いらしい、彼の自論ではあるがやはりお年寄りが多い路線はお墓の広告が目に止まるそうだ。なるべく同意したくはないが、東横線では見かけない気がしたので軽くゆっくりと頷いた。

電車が明大前を出発すると、最近はどう? と聞いてきた。順調で特に大きな変化はないけれど好きな事を出来ていると思う。そう伝えると、好きなことを仕事にするのはどんな気持ちか? と聞かれた。カイトが思っているほど、好きなことはしていない。と答えると彼はこちらを見て少し驚いていた。

イラストは好きな絵を描いていないし、なるべく売上が取れそうな絵を描いている。と伝えるとホッとしたように「そうか」と言った。唯一、文章の仕事だけが何も見ずに自分の中から湧き出た言葉と記憶と経験で作られているから。どの仕事が楽しいか、やりたいか、幸せか。と聞かれると即答で文章の仕事、そして1番辛い仕事も文章の仕事だ。と伝えると嬉しそうにしていた。

カイト「オワリが1人で進んでいると安心する」

きっと新しい職場で沢山の人と出会い色々と思うことがあったのだろうな。

僕「そうか、いつも1人だからな」

カイト「その溢れんばかりのやる気はどこから来ているの?」

僕「やる気は…わからないな。朝起きてから何かしたいと思ってしまうのは昔から何も変わっていないよ」

カイト「朝起きてサーフィンしたい。みたいな感じなのかなぁ」

僕「そうだね」

カイト「なるほどなぁ、朝起きて寝たい。だからな」

僕「それも同じなんじゃない。寝るだけでお金になる仕事があればいいよね」

カイト「そうだなぁ」

地図で見るととても遠いように思うけれど、特急に乗ってしまえばこんなに駅を飛ばしても良いのかと思うほどすぐに着いてしまった。


続く



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