NIRVANA好きが作った一冊の本とは?
(前編)
Photography: Kyouhei Yamamoto
People / 2018.04.09
誰かが始める前に自分たちでやろうと決めた
−−本を発売したきっかけを教えていただけますか?
門畑明男(以下K):自分がTシャツをいっぱい持っていたこともあり、前から本にしたいという気持ちがあったんです。ただ、タイミングも分からないし、本の作り方も分からない……。ましてや、誰かが先にやっちゃうような気がしたんですよ。
−−先を越されてしまうんじゃないかと?
K:そうなんです。自分以外の誰かがニルヴァーナのTシャツの本を作るんじゃないかという思いがずっとあって。例えば、本を作ろうとしている誰かが自分の元に「Tシャツを貸してください!」って来た時に、自分の持っているコレクションを貸すのがなんか腑に落ちなくて。100枚貸してくださいって言われて100枚貸して、その人の本ですって言われてもな〜と思って(笑)。だから誰かが始める前に自分でやろうと決めました。
−−いつから集め始めたんですか?
K:最初に買ったのは20歳くらいのときで、当時原宿にあった「VOICE」という古着屋だったと思います。あれが欲しい、これが欲しいということではなく、とりあえず持っていないニルヴァーナのTシャツがあったら買おうという気持ちでした。それが気づいたら10枚、20枚と増えていって。今ではとてもレアなんですが、カートコバーンの死亡診断書がプリントされたTシャツは最初に買った10枚のうちの1枚だったと思います。
−−それはどうやって手に入れたんですか?
K:先輩がオークションで見つけて、「こんなのあるけど買う? 落札してあげるよ」と言ってくれたんです。僕が「1万円まで出します!」って言ったら、「そんなに出さなくても買えるから(笑)」と。ニルヴァーナのTシャツって、当時は5千円でも高かったんですよ。それは6千円で落札したんですが、それから10年経って……。
的場良平(以下M):いま8万円くらいの価値があるんだよね。
K:いやいや、もう10万円です(笑)。
−−そんなにするんですね(驚)!? 的場さんもかなりの枚数を集めているんですか?
M:僕はそんなにたくさんのTシャツは持っていないんですけど、もともとニルヴァーナが大好きで。僕のメールアドレスには中学校の頃から変わらず「all apologies」(3rdアルバム「In Utero」収録曲)という言葉が入っているんです。
−−若い頃って、好きなバンドの名前とか曲名をアドレスにしてましたよね(笑)。
M:好きなものが分かってしまうメールアドレスのあの赤裸々な感じは今も変わらないです(笑)。
−−おふたりはいつ頃出会ったんですか?
M:「BerBerJin」(※原宿に店舗を構える老舗古着屋)ですね。
K:もともと「FAKEα」(原宿に店舗を構える古着屋)というお店で働いていて。今もそこで働いているんですけど、会社が一緒になるときに出会って。もう11年くらい前になりますね。
M:僕もその頃「BERBERJIN®」というお店で働いていたんですが、一緒になる頃には「FAKEα」の姉妹店があった場所に「LABORATORY/BERBERJIN®」という新しいショップがオープンして、そこで働くようになりましたね。
K:だから、頻繁に会いに行ってましたし、それが大きなきっかけかもしれません。
−−なぜふたりでやろうと?
K:僕がひとりでやったとしてもTシャツを集めてもらっていたと思うんですよ。集めてもらって、僕が作りますってなったときに、それを出版社に持って行って、全部渡して、撮影してもらって、返してもらって、ってやるのはなんか違うなと。そうしたら彼が会社を立ち上げて。
M:「offshore」がオープンしたタイミングだったし、口座開設もできるし、そういう意味でもやりやすい状況で。あと、「offshore」の字体はカート・コバーンの手描きフォントなんです。「Smells Like Teen Spirit」の手描きの歌詞を引っ張っていて。お互いニルヴァーナについても分かりあっているので、ごく自然に自分たちでやろうと。
−−ちなみに、今どのくらいニルヴァーナTシャツを持っているんですか?
K: Tシャツだけで100枚ちょっとだと思います。それ以外に、ニルヴァーナにまつわるアイテムがあったり。最初は、カート・コバーンが着ていた洋服まで集めようと思って、実は少しだけ収集していたんです。でも、クローゼットに収まりきらないし、キリがないからTシャツだけにしようと(笑)。
−−本を制作するにあたって、おふたりが持っているTシャツ以外に、色んな方がアイテムを提供してくれたんですよね。
K:そうなんです。びっくりしたことがあって、色んな人からお借りしたんですが、被ったTシャツが1枚もなかったんですよ。「これは持っているから大丈夫です」っていうことが一切なく、奇跡的にかぶらなかった。
−−面白いですね! 今まで見たことのないものも集まりましたか?
K:見てないものは多かったですよ。写真だけで見たことはあるけど、現物を見たことがなかったとか。中には「LABORATORY/BERBERJIN®」で売られていたものもあったので、自分が一足遅くて買えなかったものや、金額で諦めたものもあって。「あのTシャツ買った人知ってる人だっけ? 番号分かる? その人から借りてよ」っていうこともありましたね。
M:「LABORATORY/BERBERJIN®」で働いていたこともあって、俺は誰が何を買ったかというのがほぼ分かっているので、色々な方にご協力いただいて集まりましたね。
−−そういった人脈でTシャツが集まったという経緯もあったんですね。
M:完全に「人」ですね。すべてがたくさんの人の協力のもと、カタチになったというか。資金から何から何まで、すべて「人」にお世話になりましたね。
10年間で値段が一番変わったバンド
−−数年前からバンドTシャツブームで、どんどんと値段が上がっているのも興味深いのですが。
M:僕が「LABORATORY/BERBERJIN®」にいたとき、一番それを集めて提案していたので、ブームを生み出した側だと自負しています。僕はそこまで所有はしてないですけど、お客さんに伝えたいというのは、共鳴するものがあったというか。
−−バンドTシャツの新たな魅力や価値を伝えていきたかったと。
K:僕が古着屋で働き始めた頃はすでにバンドTの価値が見出されていた時代で。でも、ニルヴァーナはまだまだだったんですよ。単純に90年代のTシャツということだけで、「そんなのヴィンテージじゃねぇよ」っていうコンサバな時代もあって。そこにオシャレよりもアート的な価値を見出して値段をつけてきたんです。もちろん単純に当時から手に入らないものは入らないですし、そういうものを僕らがバイイングして。たとえば、昔はヨーロッパボディのTシャツは全然値段がつかなかったんですよ。ヨーロッパ製ってだけで評価されなかったんですけど、どんどん相場を上げたんです。
−−それはなぜですか?
M:考えれば、同じ年代でヨーロッパのツアーなんだから、ヨーロッパボディでもいいじゃん、それがリアルじゃん!って。それがここ2〜3年だと思います。だから、当時はヨーロッパのものを買わなかったから、あまり日本の市場に出回ってなかったんですよ。それがいま、ヨーロッパツアーのものが珍しかったりして。もちろん、「え? これが20万円もするの?」っていう人もいれば、「うわ! すごいデザインだねこれ!」っていう人もいて。1万円しないものから20万円のものまで、これだけ幅広いバンドTはニルヴァーナくらいだと思います。
M:10年間で値段が一番変わったバンドだよね。
K:そう、一番跳ね上がった。
M:この10年間で、値段を上げていったんですよ。最近だと誰々が着てるっていうのがすごく強いので、カニエ・ウェスト、ジャスティン・ビーバー、エグザイルたちが着ることで値段が上がったりもしますが。本質的な部分で仕掛けてきたつもりですね。
<後編へ続く...>
4月16日(月)に「NIRVANA好きが作った一冊の本とは?」(後編)を公開。お楽しみに!
Photograph: Kyouhei Yamamoto
Special Thanks: offshore, Keiichiro Yoneda
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