ラブシーンは、ほどほどに。

えもーしょん 小学生篇 #3

ラブシーンは、ほどほどに。

2003〜2010 / カイト・小学生

Contributed by Kaito Fukui

People / 2019.12.04

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#3 「ラブシーンは、ほどほどに」
(2003〜2010/カイト・小学生)

特に、何もない1日だった。
それまでは。

朝、5時に起きて
バローズの散歩をしながら、海へ向かう。
8月だというのに
朝露で濡れた
アスファルトが歩くと少し寒い。

テクテク歩く。ボクのビーサンの音。
バローズはボクを引っ張り進み
ブルブルと体を揺らす。
いつものように、ヨダレが飛ぶ……。

134を渡り、海に出た。
少し高い砂山に立ち、背伸びをする。

茅ヶ崎方面も、鵠沼方面もなにもない。

静まり返ったビーチと
今にも倒れそうな、バローズの呼吸音だけが
この静かな海を飾る。

「よし、帰るか。」
そういうと、バローズが少し
嬉しそうに、ボクを見る。

ゼーゼー、ハーハー
もう、流石にキツそうだから
帰りは抱っこして歩く。

「あら、かいちゃん。とっちの散歩?」
そう、話しかけてくれたのは
隣に住む、北村さんだ。

旦那さんを送り出し
ポストに溜まった郵便物を整理していた。

「バロが、ポンコツなんだ」
少し呆れた様子でボクが言う。

高級感漂う、長いロングコートの
ポケットから
いつものように飴をくれた。

家に帰り、バローズをお風呂に入れ
足や顔を洗っていた。

ーーーーー。ーーーーー。ーーーーー。

シャワーの音の合間から
何やら
聞きなれない、音がした。

ーーーー。あっ。ーーーー。んっ。ーーーー。

思わず、シャワーを止めた。



何も聞こえない。

!!!?????

気のせい?と
心の中で首を傾げ

バローズをお風呂から出し
タオルで拭く。

ゼーーゼーー。あっ。ハーー。ハーー。んっ。

バローズの呼吸と呼吸の合間にも
同じ音が聞こえ

「いや違う!!!!!!!!」
心の中で、しっかり、叫んだ。

バローズを解放し
気が付くと無意識に
音の鳴る方へ、体が向かう。

どうやら、2階から聞こえている。

一段、一段
つま先から、そうっと力を入れ、抜き
階段を登る。

階段の一番上の段と2階のフローリングが
見えた。

それと同時に
ドアの下の、1センチもない隙間から
誰が倒れているようにも見えた。

??????????????????

もう、何もわからないボク。

それでも、ゆっくり。ゆっくり。と
階段を登る。

登り切ると、そこには
リビングと階段を仕切る
曇りガラスの大きなドアがある。

見えるのは、何か。

何かが、ある…………?いる……………?

曇りガラス越しに見えたのは
パパとママが裸で、抱き合っている
シルエット。多分。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
ううううわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

思わず

溶けるように、燃えるように

叫んだボク。

ビックリして、慌てて
あたふた、動き回る
曇りガラス越しの、影。

それにまた、ビックリしたボクは
急いで、階段を下り
下でボクを心配そうに見つめていた
バローズを抱き上げ
玄関を飛び出す。

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。

12kgもある、フレンチブルドックを
抱きかかえたまま、フルダッシュで家を出た。

何も考えず、ひたすら走り
海に来た。

流石に、腕はプルプルし
ビーサンの鼻緒は取れ
来ていたTシャツは汗の重みで
首が伸びていた。

バローズは、なんだか嬉しそうに
ボクを見て笑う。

少しムカついた。

前を向くと
砂浜にホームレスのおじちゃんと
師匠と3人で
以心伝心しながら作った
ボクとおじちゃんの秘密基地がある。

続く


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