防水で乗り切る

海と街と誰かと、オワリのこと。#26

防水で乗り切る

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.02.20

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


ゴールデンウィークが過ぎて、雨の日が続いているが梅雨入りはまだらしい。バイトの帰りに寄るスーパーの買い物も1人分が、どのくらいかわかるほど東京での1人暮らしにも大分慣れてきた。最初はどれくらい食材を買ったらいいのかわからなくて、沢山フライパンに残ってしまったけど今はもうそんなことはない。けれど、カゴの中が少なくてふと寂しくなるときもある。

ザァーーーーーーーーーーザァーーーーーーーーーー
ザァーーーーーーーーーーザァーーーーーーーーーー
ザァーーーーーーーーーーザァーーーーーーーーーー

ーー朝6時

今日も東京は雨。アスファルトの匂いの中に相変わらず海を探している。ウエットスーツを着ているときはなんとも思わない雨も、ここでは憂鬱でしかなかった。だけども、今日は違う。この間ジンと学芸大学を探検しよう、と一緒に遊んだとき彼は全身シャカシャカしていた。その日は雨だったけど、彼は傘を持たずまるでウエットスーツを着ていた僕のように雨を何とも思わず受け入れて歩いていた。何としてもそれが欲しかったので、少し高かったけれどバイトの初任給を思い切って使った。

この日を楽しみにしていた、いい具合に大雨が降っている。早起きしたのは届いたばかりの防水のジャケットとパンツを試したかったから。タグを切って、早速パジャマの上から着てフードを被ってベランダに出てみる。

ポツポツーーポツポツーーポツポツ
ポツポツーーポツポツーーポツポツ

「す、すごい」

ーー全く濡れない!!!!

今日から雨の日は憂鬱にならない、ムシムシとした結露だらけの満員のバスにも乗らない。

ーー8時

しっかりシャカシャカに身を包み、家を出る。階段を降りて道路で少し立ち止まる。

ポツポツーーポツポツーーポツポツ
ポツポツーーポツポツーーポツポツ

ーーうん、やっぱり濡れない。

滑らないように慎重に自転車を漕ぐ。顔はびしょびしょだけれど、そんなに気にはならなかった。オフィスに着いてシャカシャカを脱ぐ。全く濡れていなかった、自転車を漕ぐときに靴とパンツの裾の間が空いて靴下が少し濡れていたけれど替えを持ってきているから大丈夫。

ブーーーーッブブッーーーー
ブーーーーッブブッーーーー
ブーーーーッブブッーーーー

ーー携帯のバイブレーション

ジン「おはよ〜」

ジン「今日の夜暇?」

僕「おはよう」

僕「暇だよ」

ジン「代官山駅に19時どう?」

僕「大丈夫だよ」

ジン「おっけ〜」

ジン「熊の背後が燃えているスタンプ」

続く



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