海と街と誰かと、オワリのこと。#39
やりたいこと
Contributed by Kite Fukui
People / 2023.03.14
東京にやって来て初めての夏を迎えた。暑い、とにかく暑い。けれど、今日は暑いから海に入ろうと思うことはなくなった。最近、心が海の方を向いていないことに薄々気付いている。そろそろ覚悟を決めてこの都会で何かをしようとしているのかもしれない。何をしたいかは、まだわからないけれど。あまり焦らないで多くを見て決める。
このことはジンに伝えた。彼は、そのままでいたらいい。と言ってくれたけれど、それでも何かいけない気がした。これまでサーファーか職人、漁師さんや農家さんの仕事ばかり見て来たから都会で暮らす人の仕事が知りたい。と話をしたらそれなら任せろ。と彼は色々な人を紹介してくれたりパーティーに連れて行ってくれた。パーティーの帰り道はいつも歩いてさっき紹介した〜さんはこんな仕事をしていて、〜さんはあの会社のPRだよ。と話してくれる。
ジンは少し心配そうな顔をして、こう言った。
ジン「オワリは、勤めるのか自分で進むかどっちがいいの?」
僕「それだけは、決めてるよ。僕は自分で進むよ」
ジン「そうだよな、そう言うと思ったよ」
僕「うん、自分でなんでもやらないと気が済まないからね」
ジン「オワリはアーティストがいいよ、きっとうまくいくよ」
僕「そうかな」
ジン「うん、大変なことばかりだけど。俺もサポートするよ」
僕「ありがとう、考えてみるよ」
ジン「ダメだ、もう考えてばかりじゃ。なんとなくの男になるぞ」
ジン「いま、東オワリはアーティストになれ」
僕「いま!?」
ジン「いま!!!!!!」
僕「でも、コンセプトとかさタッチの色とかが大切って言ってたじゃん。何にも決めてないしわからないよ」
ジン「大丈夫、続けたやつが本物になるから」
なんとなく、言いたいことが伝わってない気がするけれど。ここでごまかしたり目を逸らしたりはできないと思った。それにもうしっかりしないと。
僕「わかったよ、アーティストになるよ」
ジン「よし、そうと決まれば展示だね!」
僕「ゆっくり急がずでいいよ」
ジン「ダメだ、それじゃオワリはやらないから。今月、死ぬ気で作品作って来月展示やろう」
僕「本当に言ってるの?」
ジン「当たり前だろ!大丈夫!できるよ」
僕「うーん、わかったよ」
ジン「ギャラリーは俺が手配するし、人も呼ぶからオワリは何も心配しないで作品作りな。死ぬ気で」
僕「死ぬ気で。。。。」
今日、この瞬間から僕はアーティストになった。本当にこれがやりたいことかは、はっきりしていないけれど。やってみることにする。ジンを駅まで送って行き、さきの家に帰る。もうすっかり僕が暮らせるようにさきが家具も日用品も揃えてくれた。最近も、このまま同棲しようと言われたけれどそれは少し待って。と話したら余計に僕の物が増えた。無言の圧を感じている。さきの家のドアを開けるといい匂いがした。
さき「おかえり〜」
僕「ただいま」
さき「お風呂先入ってね」
僕「ありがとう」
さきは最高の彼女だ。ご飯も美味しいし、楽しく過ごせるようにいつも振る舞ってくれている。だけど僕は知っている。彼女が浮気していることを。今は知らないふりを続ける、まだジンにも相談していない。と言うか、出来ない。相手は菊池さんだから。
続く
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