『Tomi Kono Fancy Wig』のヘアエクステ

Just One Thing #22

『Tomi Kono Fancy Wig』のヘアエクステ

キナリ(大学生)

Contributed by ivy -Yohei Aikawa-

People / 2022.12.29

 街は、スタイルが行き交う場所だ。仕事、住む場所、友だち、パートナー、その人が大切にしていることが集約された「佇まい」それこそがその人のスタイルだと思う。
 絶えず変わりゆく人生の中で、当然、スタイルだって変わる。そんな中でも、一番愛用しているものにこそ、その人のスタイルが出るんじゃないかって。今、気になるあの人に、聞いてみた。
「一番長く、愛用しているものを見せてくれないか」


#22

服が好き。

ファッションに係わる人であれば恐らくほとんどの人がそうだろうし、敢えて自らそう口にしなくても、傍から見れば当て嵌まる人はたくさんいる。ただ、その「好き」には、あまり意識が行かないくらい、様々な形があるのも事実だ。ブランドに心酔している人もいれば、素材が好きな人、シルエットに譲れないこだわりがある人、特定のアイテムに狂気を感じるほどの愛を持っている人…。こうしてパターンを考えていくと、キリがない。

そういう視点で見たら、今、目の前にいる彼女の場合は、服をモノというよりは、コトとして好きなタイプなんだろう。ペルシャ語を専攻する大学生、キナリの着こなしはそう感じさせる。



「何を買うか、何を着るか、みたいなモノ自体よりも今あるものをどう着るかを考えています。買い物するのが好きな人もいるし、モノ自体を育てる人もいるけれど…私の場合は、スタイリングを考えるのが一番楽しいんです」

ベレー帽を被り、黒いタートルネックと黒いパンツの上から柄のカーディガンと麻混紡のジャケットを羽織っている。一つ一つのアイテムを着ているとき、きっと全然違う組み合わせになるんだろうなと、見ているだけで想像がつく。

実家は京都の宇治で子ども服店を営んでいるというキナリは、幼い頃から服好きな両親が買った服が家にたくさんあったという。

「親もこだわりが強いので、昔は出かけるときに『え、それで出かけるの?ちょっと待って』って、呼び止められることがよくありました。そういう中で育ってきたので、今あるものから自分をどう見せるかって考えるようになったと思います」



そんな彼女が長年使っているものは、何か。普段敢えて意識することはないかもしれないけれど、持ってくるように頼んだら、意外にも返事は早かった。この日首元に身に着けたアクセサリー、正確にはヘアエクステだ。

「河野富広さんというアーティストが創っているものです。エクステって本来は髪に着けるためのものだと思うし、最初は私もそうやって使っていたんですけど、最近はアクセサリーとして使うことの方が多いですね」

アイテム個々に対して執着があまりないという。だから、服も着ているうちにはさみを入れて、形を変えたり、どこかを切り離したり、大幅にリメイクすることが多い。それと同様に、何をどう使うか自体も常に思考の対象となり得る。

「常にこうでなきゃいけない、みたいな固定概念を持ちたくないんです。多分人がモノを見たり考えたりするときってカメラみたいにフォーカスをどこかしらに当てていると思うんですけど、私は幾つかの場所に常にフォーカスが当たっている状態です」

特定のものをどう見ているか、どこを見ているのか、彼女にしか見えていない視界が共有されているのがそのスタイリングなのかもしれない。



「自分のスタイリングを組むときは、誰と会うかでメインにするものを選んでいます。色とシルエットのバランスは勿論だけど、根っからの関西人なので…どこかで面白いと思わせたくて(笑)人と会うときの服装にもどこかで会話のきっかけになるようなポイントを作っています」

会話が生まれるアイテム、という意味ではアクセサリーとして使ったヘアエクステほどの適任はそうそうないだろう。

「髪の毛って、素材としては限りなくナチュラルに近いもので。人間には必ずあるもので、意外性がある割に色々な服と合わせやすいから。場面や人を選ばずに使えるので、お気に入りですね」

髪の毛を素材として見ていることが既に他人からしたら面白い。きっと目の前にいる人がキナリの首元に目が行って話をしているとき、キナリは人の髪にもフォーカスが当たっている。

会う人や行く場所、そのスタイリングや彼女の視線と同じように、キナリは常に変化を求めている。それは、スタイリングやモノ選びに限ったことではなくて、これまでのあらゆる選択においていえること。



「大学でペルシャ語を専攻したのも色々と悩んではいる中でした。英語は幼い頃からずっとやっていたのと、服のことはずっと考えていたのと。だから、言語学か服飾の専門学校か、って考えていました。そういう中で元々文字を絵として捉えるのが好きだったからか、アラビア文字に惹かれている自分もいて、これまで学んだことがないペルシャ語を専攻しようって決めたんです」

今まで触れたことのない言語を学ぶ。それだけで十分すぎるくらい変化に満ちていて刺激的だけど、彼女に一番の変化をもたらしているのは、やはり周囲の人のようだ。

「私個人の活動よりも、誰かと一緒にやることを優先しちゃうところがあります。大学に行きながら、演劇の衣装をディレクションしたり、友だちと二人で衣装製作をしたりもしているんですけど…なかなか個人のアウトプットに手が回っていなくて」

悩んでいるようにも見えて、確信を持っているようにも見える。何かをしていないと嫌だ、罪悪感すら覚えてしまう、という。そんな彼女にとって、これまでの思考や固定概念に変化をもたらしてくれる他者との関わりは何物にも換えがたいはずだ。

今後やってみたいことに自分の店を出すことを挙げるキナリ。服を組み合わせることに重きをおいた彼女のお店、とても素敵な場所になりそうだ。

「お世話になってる人からは『キナリの部屋をそのままお店にしたらいいんじゃない?』っていわれて、確かにいいかもって」

着こなしも、モノの捉え方も、人との関わり方も、固定概念に縛られないでいることができる。そういられる人はあまりいなくて、そうあるためにはきっと、自分で意識して行動することはもちろん、絶えず思考を巡らせる環境も大切だ。



日々新たなモノ、コト、ヒトとの出会いを繰り返し、アップデートを高頻度で繰り返すキナリもそれに当てはまる。そんな彼女の部屋に並ぶものはきっと、彼女が辿ってきた足跡が見えるもので、一つ一つ、彼女が売るからこそ意味を持つんだ。

そう考えたとき、服や身に付けるものは、キナリにとってどんな存在か。新しい気づきや出会いをくれる、きっかけになる存在なんじゃないか。

首に下げたヘアエクステが会話を生むことがあれば、また別の楽しみ方を知っている人に出会うかもしれない。身につけるもので内面を完璧に表すとは限らないけれど、少なからず何をその人が大切にしているか、何を見ているか、何を考えているか。そうした見えない人となりを表現することはできる。

キナリはそのことに気づいていて、且つそれを楽しんでいるように見える。

次に会うとき、彼女はどんな服を着てくるんだろう…。それから、私は何を着ていこうか。考えているだけで、毎日が少しだけ明るく、瑞々しいものに見えてくるから不思議だ。


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キナリ
京都府宇治市出身。大学生。ペルシャ語を専攻する傍ら、アートイベント『Brian Eno Ambient Kyoto』のディレクションや演劇の衣装提供等多岐に渡る活動を行っている。
Kinalien(@kinalienart

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