えもーしょん 中学生篇 #39
唐揚げおにぎり
2010〜2013/カイト・中学生
Contributed by Kaito Fukui
People / 2020.06.25
小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!
#39 「唐揚げおにぎり」
(2010〜2013/カイト・中学生)
朝方。
と、言っていいのか。
まだ空は宇宙色。
太陽の気配なんて、これっぽっちも感じない。
朝の、冷気がやってくるよりも
ずっと前。
ボクは1人
暗闇の中、家の駐車場にいる。
約束の時間はとっくに過ぎた。
昨日、ママが作ってくれた
おにぎりを全部食べるくらい
約束の時間はとうに過ぎた。
だいたい、いつもこうだ。
おにぎり3つを過ぎても
みんなが、やってくる気がしない。
おにぎり4つ
最後の2口を目前に
食べちゃうよ?いい?食べちゃうよ?
と、心の中で確認をする。
もちろん、自分に対して。
この1口を食べて、みんなが来なくても
落ち込まないかい?大丈夫かい?
と、そんな意味も込めている。
だ、大丈夫。ボクはみんなを信じているから。
毎回、そう言って
最後の1口を口にする。
辺りを見る。
何もない、猫もいない。もちろん人気もない。
耳をすます。
ヤシの木が揺れる音、朝刊のバイクの音もしない。
聞こえるのは、寂しそうに
おにぎりを噛む音。
ゴクリ。
「あぁ」
最後の1口を飲み込み
水筒のコップを回しお茶を入れる。
ゴクリ。
辺りを見ても、やはり
誰も来る気配がない。
最後のおにぎりの、アルミホイルをめくる
中身は、きっと唐揚げ。
そんなわけ、ないか。
無難に、鮭か梅だな。
唐揚げであって欲しいけど…
そう重い、1口。
ん。
これは…
梅では、ない。
暗くて、よく見えない。
が、鮭でもない。
これは…
小さく、もう1口。
ん。
これは…!
確かに、いま、確かに
サク。
竜田揚げの衣が
確かに、いま
前歯と出会った。
おにぎりを包む
アルミホイルが光だす。
真っ暗だった、辺りが
おにぎりの半径5センチから
輝き始めた。
唐揚げ。
ついに、唐揚げ。
何年間、お願いしたことだろう。
具なしから始まった、ボクの早朝おにぎり。
焼かない、味噌おにぎり
焼いたが、中に味噌。おにぎり。
何もない、焼いたおにぎり。
ノーマル焼きおにぎり
そして、海苔が付き
海苔おにぎり
塩昆布おにぎり
梅おにぎり
ツナおにぎり
鮭おにぎり。
そして、ついに完結篇。
唐揚げおにぎりと出会えたのだ。
おかしいと、思った。
このおにぎりだけ、妙に
ご飯の味が違うのだ。
恐らく、近くのスーパーの
唐揚げおにぎりを綺麗に開け
あたかも、自分が作ったかのように
アルミホイルに包み直し
そっと、混ぜたのだろう。
だがしかし
そんなことは、どうでもいい。
ボクは、やっと
唐揚げおにぎりをこの暗闇の中で
食べられるのだ。
さぁ、いざ。
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Kaito Fukui
1997年 東京都出身 幼少期から波と戯れ、サーフィン、スケートボード、恋に青春。 あの時、あの頃の機微を紡ぐように幾層ものレイヤー重ね描き、未来を視る。 美化されたり、湾曲、誇張される記憶を優しく繊細な浮遊感で!