New kid on the block. #7

クリスティーナ・リッチとクロベエ

Contributed by Ryo Sudo

People / aug.18.2020

anna magazine編集長・須藤亮がステイホーム中に考えたことと、すこしだけ旅の思い出。

#7



カウンターで足のサイズを申告する。あらゆる靴の中で最も履きこなすのが難しいデザインのシューズが手渡される。もちろん、選択権はない。履き替えたら、木製の棚にずらりと並べられたボールの中から好みの重さとサイズを選択する。「13ポンド、穴は大き目」が基本だけれど、久しぶりだったので2種類選んだ。指定のレーンに座る。ブラウン管のモニターと、宇宙船みたいなデザインのボールラック。なかなかいい感じだ。

隣に陣取るロマンスグレーのベテラン勢は、2人ともマイボール。右手にはめたグローブが「地獄先生ぬ〜べ〜」みたいでかっこいい。右隣には、よれたTシャツにタトゥーの寡黙な男。投げるたびにスマートフォンで何かテキストを打っている。新参者の僕たちは、それぞれに軽く目を合わせて少しだけ笑顔を見せる。こういう場合、第一印象がなにより大切なのだ。



1投目。ラックからボールを拾い上げ、乾いた布でボールの油分を拭きとる。掃除機の後ろ側から出てくる生ぬるい風みたいな「謎エアー」を右手にあてる。40年以上ボウリングをしていて、効果はいまだ未知数だ。でも「謎エアー」のないボウリングなんて、「クリープ」を入れないコーヒーと同じくらいありえない。左右のレーンに人がいないか確認し、おもむろに投球する。7ピン。スペア狙いに切り替える。その様子を横目で確認していた周りのプレイヤーたちは、僕たちへの興味を失って自分たちのプレーに戻っていく。それぞれのタイミングで。

当然だけど、ここではクリスティーナ・リッチがタップダンスを披露することはないし、「今週もスタートしました!」とクロベエが突然司会を始めることもない。投げて、倒す。投げて、倒す。その単調な作業の繰り返しだ。



「新参者」の違和感は、そんな感じでゆっくり風景の中に溶けていき、いつの間にか僕らもその「コミュニティ」の日常の一部になっていく。うん、そうそう、この距離感なんだ。ほんのひとときだけど、そこに「自分の居場所」があるって安心感。オーバーアクションな歓迎もない代わりに、完全に突き放されることもない。その感じが、なんだかとても心地いい。ボウリング場は、世代も性別も人種も超えて、あらゆる人々に等しく開放された、世界で一番フラットなコミュニティセンターなのだ。

「ローカルコミュニティの空気感」を気軽に感じてみたいなら、ボウリング場へ。言葉はいらない。問答無用のリアリティが、そこにある。

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