YOUNG-GUNS#005

飲食店経営者・山本秀教ものがたり。(前編)

Illustrat:SUGI

People / jan.28.2019


さまざまな人の歴史を切り取り物語にする「YOUNG GUNS」。
第2回目となる今回は、
飲食店経営者・山本秀教(やまもと・ひでたか)さんのストーリーをクローズアップ。
※実話をもとに、ちょこっと辛めのスパイス(フィクション)で味付け中。



オレが見返したい奴ら。


「すいませーん、日本新聞のものですが、新聞を変えてみませんか?」
「ごめんくださーい、日本新聞ですが、新聞をとってもらえませんか? 来月から新しいコラムが増えて面白い内容なりますよ」
「休日に恐れ入ります。日本新聞ですが、今、新聞を定期購読されていますか? もし日本新聞に変えていただけたら、新商品の洗剤をプレゼントしますよ」
「こんばんわー、日本新聞です。今、少しお時間もらえますか?」

門前払い20件、対面できたのは3件、契約成立に至ったのは0件。

今日の成績は最悪だ。

新聞拡張員の仕事を続けて3年くらい。3〜4月の引越しシーズンは、新規契約が比較的取りやすいと言われている。だが、今日は1件もそうならなかった。

第一、「住居を変えたから新聞も変えて心機一転しよう。みたいな考え、おれには毛頭理解できない。そもそも新聞なんて読まないし。
そんなオレでも、半年に一度くらいはそれなりの成果を上げて、並のサラリーマンより月収がいいときだってある。まぁ、それも6ヵ月に1回程度の話で、他の5ヵ月はハズレ。

この仕事が楽しいか? と聞かれたら「楽しいわけがない!」と真っ先に答えてきた。この仕事のいいところは定時という概念がなく、自由に働けるところ。けど、ノルマはある。「自由=責任だ」って、昔誰かが言っていたっけ。もし、その道理が正しいのなら「自由=責任=売上確保=ノルマ」みたいに巡る方程式も理にかなっている気がする。
この状況が嫌で逃げ出すやつも多い。だけど、オレは団長に気に入られたこともあり、のらりくらり続けている。もしかしたら、この仕事はオレのスタイルにあっているのかもしれない。

「ビッグになるんだ!」って夢見て、三重県から上京してきた。
何か取り柄があるのかと言われれば、ない! 学生時代はろくに勉強もしてこなかった。でも、一流と言われる大学に入ったけど……、って大人をオレはたくさん知っている。それに、未だに勉強は不必要だと思っているし。
好きなこと、やってみたいこと、それらを我慢している大人は結構多いようだ。
なんで?っていつも思う。勉強も仕事も嫌なら辞めればいいし、やりたいなら続ければいい。そこに我慢するという選択肢はないはずだ。

これは、オレなりの意地? 反骨精神? 見返し? 一体何なんだろう。
例えば、高校の頃オレを振った女、あいつを後悔させてやりたい。
例えば、オレの現状を馬鹿にしてきたやつら。あいつらをギャフンと言わせてやりたい。
例えば、オレの声に耳を傾けなかったやつら。全員を驚かせてやりたい。
そんな、どうでもいいようなことなんだけど、頑としてゆずれない信念を持ってオレは生きている。

そんなオレの現状に共感してくるやつもいる。月に2回程度、そいつと飲みに行く。場所は下北沢にあるいつもの居酒屋。そして、いつも目の前にはひげを生やしたオーナーのオヤジがいる。

ある日、このオヤジがやっている仕事って、オレにもできるんじゃないか?ってふと思った。そして、友人と会話をしながら、飲食店経営者としての自分の姿を考えてみた。“飲食店経営者”って、誰かに言えるような職種だし。

「オーナーが店を閉めたらしいぞ。お前が変わりに同じ場所で店をやってみないか?」。突然、友人から連絡が入った。オレはすぐに引き受けることにした。料理はもちろん、酒もろくに作れない。ウーロンハイはどうやって作るんだ? まぁそれはおいおい覚えていけばいい。とりあえず開店資金をどうしよう。たまったお金が必要だが、持っていない。友人たちにお願いしてみようか。貸してくれるかな。

オレの人生が始まった。

…end

後編に続く。

[profile]
山本秀教(やまもと・ひでたか)/飲食店経営者。呑もうぜグループ代表。三重県出身。30歳半ばまで格闘家として活動しながら新聞拡張員のアルバイトをしていた。20代の頃には、音楽バンドや俳優業を少しかじっていた経験も。“面白そう” “楽しそう”など、その時々の直感を大切にしている。現在は下北沢と代田橋で飲食店7店と美容院1店を経営。働くスタッフひとり一人の個性を活かしたイベントなども企画している。http://nomouze.jp/

 

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