メリケンサック

えもーしょん 大人篇 #68

メリケンサック

2016~/カイト・大人

Contributed by Kaito Fukui

People / nov.11.2020

プロサーファーの夢をあきらめ、今はイラストレーターとして活躍するKaito Fukuiさん。小学生から大人になるまでのエモーショナルな日々をコミックとエッセイで綴ります。幼い頃から現在に至るまでの、時にほっこり、時に楽しく、時に少しいじわるで、そしてセンチメンタルな気分に包まれる、パーソナルでカラフルな物語。

小学生篇、中学生篇、高校生篇、大人篇。1ヶ月の4週を時期ごとに区切り、ウィークデイはほぼ毎日更新!



#68
「メリケンサック」
(2016~/カイト・大人)

上京して、モテたいからって

ちょっといい部屋に住んでみた。

新築で、いわゆるデザイナーズマンション。

いつもなら、畳の部屋がないと、オートロックとかいらなーい。

なんて言っていたけど、一度は住んでみたかった。

コンクリート打ちっぱなしの部屋に憧れて契約してしまった。

家賃11万円、WI-FI無料、駐輪場使用料1000円。

メゾネットタイプの部屋で、一階にトイレとお風呂とリビング。

二階にキッチンと寝室。

今思うとちょっと不思議な間取りだった。

引っ越してからバタバタしていてゆっくり部屋で過ごすことが少なかったけど

年末に近づき、ようやく落ち着いてくると

ようやく、恋もできるようになった。

当時からモテたいと宣言していたボクは

そう時間もかからず、彼女ができた。

その後は、特に面白い話も大きな事件もなく穏やかな日々が流れた。

3ヶ月ほど経ったある日。

「なんか、飽きちゃった」

と、そんなに本気で言ったつもりではないけど

つい? ぽろっと言ってしまった

彼女「飽きちゃったって、なにが?」

ボク「いや、なにがって」

彼女「なに?」

ボク「んー難しい」

彼女「難しい!?」

ボク「難しいね」

彼女「だからなにが!?」

ボク「いや、だから難しい」

彼女「もう、無理限界」

ボク「え、なにが?」

彼女「ちょっとそこで待ってて」

ボク「うん、わかった」

彼女は、ドカドカと階段を降りてクローゼットを開けた

なにかを探しているのか、なにか隠していたものを取り出すように

クローゼットの中のものを出しては

段ボール、バック、ケース。

なんでもかんでも開けていた。

ボク「手伝おうか?」

彼女「いや、大丈夫ー座っててー」

ボク「はーい」

彼女「~~笑」

ボク「???」

数分後、「あったー」としたから聞こえ

ボク「お! よかったねー!」

と、上から言った。

彼女は何かキラキラしたものを持って階段を登ってきた

彼女「かいと、そこに座って?」

ボク「ここ?」

彼女「うん、そこ」

ボク「はーい」

ボクはベッドの横の椅子に座った。

彼女は、穏やかに笑ってボクの前に立った。

そしてさっきのキラキラした銀色の物をポケットから取り出して

彼女「今から、このメリケンサックで殴ります」

と、言った。

ボク「メリケンサック? なにそれ?」

彼女「え!? 知らないの?」

ボク「知らん」

彼女「…」

彼女「呆れた、もういいや」

ボク「え?」

彼女「これ、おじいちゃんの形見のメリケンサック。あげる」

ボク「いいの!?」

ボクは知らなかった

メリケンサックは人を殴る物だなんて

それから数日後、ボクはおじいちゃんの形見のメリケンサックで

1発うんと軽く殴られた彼女とは別れた。



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