interview: Ahlem Manai Platt

GIRLS GO, WEST!

interview: Ahlem Manai Platt

Photograph: IBUKI

People / 2024.09.20

「いつだって人生を、自分らしく、自由に選択していたい」
小さな冒険に踏み出す女の子たちの勇気を、ポジティブに後押しするプロジェクトとしてスタートしたanna magazineの『GIRLS GO, WEST!』プロジェクト。今回はアイウェアブランド〈AHLEM〉のデザイナーとして活躍するアーレム・マナイ・プラットにスペシャルインタビュー。


“自分自身を信じること”を大切に、出会った場所や環境に“順応しながら”一歩一歩前に進んできたアーレム。インタビューで答えてくれた優しさの中にも芯がある彼女の言葉を、小さな冒険に踏み出そうとしているすべての人たちのためにお届けします!


interview: Ahlem Manai Platt



「わたしは幼い頃からデザイン的、美的なセンスがあったと思うの。それと同時にメガネやサングラスに対する細かなこだわりもあったわ。だからアイウェアデザイナーになったのは自然なことだったのかもね」。そう話す、アーレム・マナイ・プラットはLAとパリを拠点に活動するフランス人のアイウェアデザイナーだ。


―“いつもと違ったところにいる”という感覚を、同じ場所で繰り返す

「わたしの家族は北アフリカのチュニジア出身だけど、実際にわたしが育ったのはパリの7番街だった。母は子育てをする時間が本当にない人で、わたしが生後7ヶ月の時バスケットに入れて叔母に預けたの。それからはいつも飛行機でチュニジアとパリの二ヶ所を行ったり来たりしていたわ。でもそのおかげで、どんな飛行機でもすぐ慣れて寝ることができるの。テレビも見ず、食べたりもしない……すぐ寝ちゃうのよね。大人になってからは他の場所にも旅するようになって、21歳の頃には2年くらいメキシコに住んだこともある。帰国後はジャーナリストの仕事をしたりしていて、初めて日本に訪れたのは26歳の頃だった。20日間、東急ステイに泊まったわ。周りには日本人しかいない環境で、それがすごく楽しくてもっと旅をするようになったの。“いつもと違ったところにいる”という感覚が好きでね。でもやることは基本的に一緒なのよね。今回のように仕事で半年に一度は日本にも訪れるけど、いつもと同じホテルに泊まって、いつもと同じコーヒーショップに行く。繰り返すことが好きだし、100カ国にいくことには興味がない。何か通じるところがあると感じた場所に、何度も通う方がわたしにとって大切なの。今やっていることが大好きだし、今自分が手にしていることで、すでに満たされているわ」




―デザインはアイデアを書き溜めたノートから

仕事柄、旅することも多いアーレムはその旅のいろんなコト・モノからインスピレーションを得ているそう。「〈AHLEM〉のデザインをする時のインスピレーションは葉っぱとか建物、人々のスタイルや顔……湧き出るほどたくさんある。でも、その時点ではまだカタチにならないの。インスピレーションから得たアイディアをたくさん書き留めているノートをふと開いたときに、何がデザインに役立つかが分かってようやくカタチになるのよ」


アーレムがいつもアイデアを書き溜めているノート


「ちなみに日本でスケッチをしたメガネもあるの。日本の市場を意識したり、日本人がかけるメガネとしてデザインしたもので、“Sacre Coeur”というモデルは日本人によく似合うカタチなの。最初に紙に起こした時は何かが違うと思って、〈GLOBE SPECS〉の岡田さんにそのメガネを見せたら彼も『なんだこれは』と言って驚いていたわ。でも実際にかけてみると次は『彼女は天才だ』と言ってくれたの。これはあくまで彼の言葉で、私自身天才とまでは思わないけど上手くフィットするだろうという確信は確かにあった。この上下逆さまになったフレームがいいと思ったのよね。普通だったら逆と思われる配置でも日本人の顔には完璧にフィットしたから。そしてこのメガネはキャットアイにはなっているけど、配置が違うから完全なキャットアイではない。だからこのカタチはアンバランスなフェイクキャットアイなのよ」


“Sacre Coeur”モデル





―その人の“活動源”となるアイウェア

「〈AHLEM〉のアイウェアは職人の技術とディティール、精巧さと上質さが特徴なの。大きなメガネを作ったり、金をそこら中に施すことは簡単だけど、完璧な白いTシャツを作ることは本当に複雑で大変。みんな着ることができる同じ白いTシャツでも、ジルサンダーのものとプラダのもの、ユニクロのものは大きく違うじゃない? どうすれば同じアイウェアでも違いを生み出せるか、ということを常に考えているのよ。その精巧さは1ミリよりももっと小さな世界の話だったりするから、たくさんの他のブランドが〈AHLEM〉のカタチのメガネを作ろうとしてもできない。あとメガネはその人の“活動源”であるべきだと思うから、その上でかけ心地よさも大切にしているわ。だってメガネがあなたを身につけるのではなく、あなたがメガネを身に付けるのだから。『軽い』とか、『つけていてどこも痛くならない』とか、そういうつけ心地の良さが重要なの。特殊だと思うけど、その精巧な作り方とこだわりこそが〈AHLEM〉の秘密。フランスのオートクチュールみたいなものね」



シンプル、快適、そして美しいシルエットの〈AHLEM〉のアイウェアからはアーレムの細やかな気遣いと、譲れないこだわりが感じられる。「わたし自身、メガネは服に縛られるべきではないと思うの。その逆も然りで、服がメガネを選ぶことがあってもいけないと思う。自由が奪われてしまうからね。例えばわたしが今着ているものと、別のメガネを合わせても……ほら! 似合うでしょう? こっちのメガネならもっとドラマチックになるし、こっちのメガネならクラシックになったりする。どれでも合うの。だからアイウェアは着るものを選ぶべきではないと思うのよ。その人の“スタイル”として馴染むように。それに、わたしのメガネを選んでくれているということは、自分ですでに正解がわかっているようなもの。どういうふうにあわせて欲しいか、なんてわたしからわざわざ言う必要はないの。あなたが自分で選んでいる時点で、惹かれるスタイル、自分の中の正解があるはずなんだから。わたしはあなたたちから学ぶことがあるけれど、あなたたちがわたしから学ぶことはないのよ」






―アーレムのルーツが一枚にぎゅっと詰まったメガネ拭き

もちろんアーレムがこだわっているのはアイウェアだけではない。メガネには欠かせない存在のメガネ拭きは、自身のルーツを大切にしているアーレムの魅力がぎゅっと詰まっている。そんな各国のモチーフがたくさん散りばめられている遊び心満点のアイテムをアーレムが紹介してくれた。「メガネ拭きは4つの直営店ごとに一枚ずつ作っているの。それぞれの都市を表していて、これはパリ。実はわたしたちの作るフレームはどれもパリの地名からきているもので、“Sacre Coeur”とは場所のことなの。わたしたちの作った最高のフレームの名前はここからきているってことね



「そしてこれはロサンゼルス。お土産のポストカードをイメージして作ったのよ。観光客がよく行くビバリーヒルズやハリウッドサイン、そしてアボガドトーストにカーダシアンズ。ゲッティーミュージアムもあるわね。これはビーチボーイズで、ミッキーマウスも。ここに描かれているモチーフはとってもカリフォルニア的で、ロサンゼルスそのものなの」



「あとはニューヨーク。これはとにかく有名なモニュメントを集めたんだけど、その中にはAHLEMのストアもあるの! 今手元にないけど、サンフランシスコのバージョンも作ったわ」



〈AHLEM〉のアイウェアの魅力は、しなやかで芯のあるアーレム自身の魅力と重なる。最後に小さな冒険を重ね続け前に進んできたアーレムに「GIRLS、GO WEST」プロジェクトを楽しみにしてくれているすべての人へ向けてメッセージをもらった。




―「私って最高!」と自分自身を信じてあげること

「もしあなたが望むなら、そこに向かうべき。人前でこういうことを話すと、皆『それはすごく複雑だ』とか、『お金を沢山用意しないといけない』とか、『ネットワークが必要だ』とかそういうことを言うけれど、どれも間違いよ。だってあなたが望むことは、何でもできるから。人は本当に何かを創り出したいとき、『10億円の会社を作りたい』なんて言わない。このままでは上手くいかないことがわかっているでしょ? でも信じて創り上げたものは、10日先でも10年先でも叶うの。それはわたしが〈AHLEM〉を10年かけて育てたみたいにね」



「今でこそたくさんの人に認知されているけど、もちろんブランドをはじめるまでは誰も〈AHLEM〉のことを知らなかった。わたしは当時パリにあった古いお店に、自分で製作した完成途中のアイウェアを持って行ってセールス担当の人に『ここではどんな商品が一番売れていますか?』と直接尋ねたりもした。そしてその人はわたしがブランドをやっていることを知ると『準備ができたら持ってきてよ』と興味を示してくれて、すぐに試作品を持っていったところからすべてがはじまったの。叶えたい場所まで誰かが連れて行ってくれることなんてないのだから、自ら出向いて誰かに興味を持ってもらわないといけない。わたしは自分の時間を100%使って、自分のお金を使ってやっていたら上手くいくって信じていたの。きちんと自分の脳を使えば、上手くいく。だってわたしの名前も載っているし、逃げ場がないじゃない? 『やっぱりやめて、他の誰かのために働くわ』なんて言えないの。そう言うにはもう遅過ぎるからね」



「わたしの今があるのはすごく幸運だけど、どんなことをやるにしても自分を本当に信じないといけない。そのためにはとにかくやってみること。あまり先を考え過ぎてもよくない、だってそんな先のことなんて誰も分からないのだから。だからこそ鏡を見て、『私って最高!』と自分自身を信じることが大切ね



「それと旅することも大切だと思うわ。その土地での生き抜き方を知らないといけないからね。世界には見るべきことや、やるべきことで溢れている。それはただコーヒーを飲んだり、道を歩いたりするだけでも意識することができるの。旅は自分自身を成長させてくれるし、違った文化を見せてくれる。そこで異なる生活の人々を理解できたりもする。ポイントは理解力と順応力、あとは流れに身を任せる。それが一番よ」



【Profile】


アーレム・マナイ・プラット(AHLEMデザイナー)
フランス生まれ。LAとパリを拠点に活するデザイナー。アクネやミュウミュウなどのアパレル経験を経てアイウエアの世界へ。AHLEMのデザインに対する考え方は20世紀初頭のバウハウスムーブメントに強く影響を受けており、アートを日々の生活の中に溶け込ませることを意図し、トレンドに左右されない常にシンプル、快適、そして美しいデザインを目指している。

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