コーヒー

海と街と誰かと、オワリのこと。#5

コーヒー

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.01.12

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


ちょうどいいタイミングで、ゆきが注文した日替わりランチのカレーがきた。物件探しに夢中になっていたあきほがやっと携帯を置いた。ひと口食べる?とゆきがあきほにスプーンを渡す。

あきほ「いただきます〜」

ゆき「どうど召し上がれ」

あきほ「おいすうぃですぅう」

ゆき「よかったね、オワリも食べる?」

僕「大丈び、ありがとう。」

あきほ:ゆき「大丈び笑」

ゆきが少し笑ってホッとした、現実的な話をしないで今は3人で楽しく過ごしたかったから。あきほのサンドイッチも届いて2人が美味しそうにランチを食べているこの時間がずっと続けばいいのにと思う。高校の卒業と共に突然大人の現実世界を感じた。お金と人生。これまで真剣に考えもしなかった問題がいま僕の目の前に怪物になって立っている。2人には見えていない。僕だけに見えるこの怪物はどう倒したらいいのか、わからない。逃げようとしても必ず現れる、僕はこのまま喰われてしまいそうだ。

ゆき「どうしたの?」

ゆきが心配した顔で言う。

「なんでもないよ」と言ってコーヒーを飲む。全然苦くないコーヒー、怪物が現れてから突然コーヒーが飲めるようになった。もしかしたらこうやって大人になっていくのかもしれない。他の人には見えない、自分の中だけに存在する怪物と戦う事が大人なのかもしれない。お腹で目一杯空気を吸って吐く。

ゆき「どうしたの?具合でも悪いの?」

ゆきはまた、心配して聞いてくる。全然大丈夫ではないし、お腹で息吸って吐かないとなんだか心臓のドキドキに負けそうで押しつぶされそうなの。なんて言えない。

僕「コーヒーが熱くて」

ゆき「はい」

ーー小さいスプーンをゆきから受け取り、クルクルとコーヒーをかき混ぜる。

2人が食べ終わって、ぬるくなったコーヒーを一気飲みする。お会計をして、あきほはバイトへ向かった。ゆきの家へ歩いて向かう、途中から手を繋ぐ。

ゆき「新刊、あるよ」

好きなドラマに出てくるバーテンダーの真似をしてゆきは言った。

僕「ちょっ待てよ、まじすか!」

と僕も合わせて言う。夕日が射してゆきが眩しそうにした、可愛い。別にこのまま怪物にはタイム!とだけ伝えて卒業までは今まで通りでもいいじゃないかと手を繋いで2人で歩く。


続く。



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Writer

  • Kite Fukui

    1997年 東京都出身 アーティスト活動休止中。