ちょっとでも良いから、強くなれ

海と街と誰かと、オワリのこと。#10

ちょっとでも良いから、強くなれ

Contributed by Kite Fukui

People / 2023.01.23

大好きな海を離れ、アーティストになったオワリ。居心地の悪さを感じながら、それでも繰り返されていく毎日のあれこれ。「本当のボクってどんなだっけ?」。しらない街としらない人と。自分さえも見失いかけたオワリの、はじまりの物語。


ゆきに別れを告げられた。当日は心が引き裂かれたようでとんでもなく苦しかった。引き裂かれた溝に涙が溜まって窒息してしまうかのように泣いた。
家に着くと、お父さんとお母さんが帰ってくる前にお風呂に入った、泣いたことがばれたくなかったから。シャワーを浴びて、体を洗って泣いた。髪の毛を洗って泣いた。お風呂に入って泣いた。そろそろ2人が帰って来てしまう、そう思うと余計に涙が止まらなかった。
誰かに慰めてほしい。そんなことではなかった、多分2人の優しさオーラ的な物に泣いてしまうのだと思う。よく、砂浜で体育座りをしながら夕日を見つめて涙を流すスーツ姿のサラリーマンや、夕日に向かって何か文句を言っている女性を見たけれど。それに近いと思った。
今なら彼らの気持ちがわかる、彼らの姿を思い出して再び泣いた。

とにかく2人を見たら、狂ったように泣きそうだから自分の部屋に篭った。
ベットに倒れ込み、布団の中に潜った。自分の心臓の音が聞こえた、いい加減泣き止んだらどうだ。と心のどこかで思いもしたが、そんな簡単に涙は止まらない。目を瞑るとゆきが浮かんだ。映画を見るゆき、コーヒーを飲むゆき、絵を描くゆき、ちょっと怒ったゆき。沢山思い出してまた泣いた。あの時もっと好きとか言っていたら、プロになってれば。何か変わってたのかな。

「ブーーーーッブブッーーーー」
「ブーーーーッブブッーーーー」
「ブーーーーッブブッーーーー」

ーー携帯のバイブレーション

これは、もしかしたら。。。。と急いで携帯を探した。もう一生この布団から出ない、と決めていたのに。脱ぎ捨てたデニムのポケットから携帯を取り出しラインを開く。

あきほ「若き少年よ、いまこそ強くなれっ!(グッ)」

うるせえ馬鹿やろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

あきほはどう言う神経をしているのか、思わずクスッと笑ってしまった。
そうだ、強くなれ。頑張れ、頑張れ。
呪文のように唱えて気がつくと眠っていた。

続く



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