「WAVES」を語る男と女

TYPE OF MOVIE-映画を観る男と女 #11

「WAVES」を語る男と女

Illustration : TOMIMURACOTA

People / 2020.08.12

同じ映画を観ているのに、男と女で感想がまったく違うことがある。印象に残っているシーンも、劇中の曲に対する評価も違う。「TYPE OF MOVIE」では、そんな男と女の感性の違いにフォーカスを当てながら、今注目の映画をご紹介! 第11回目は「WAVES」です。


「WAVES」を音楽は雑食という男と60~80年代の洋楽が好きな女が鑑賞。



「WAVES」について


日本での「ミッドサマー」のヒットも記憶に新しい、ハリウッドに新風を吹き込む映画制作会社、A24。本スタジオが放つ最新作に、トロント国際映画祭では史上最長のスタンディングオベーションを巻き起こり、「鮮やかなまでに観る者の心をわしづかみにする」と世界中が大熱狂。本作の主役とも呼べるのは、今の音楽シーンをリードする豪華アーティスト達が手掛ける31の名曲。トレイ・エドワード・シュルツ監督が事前に本編に使用する楽曲のプレイリストを作成し、そこから脚本を着想し製作されました。監督自身が“ある意味でミュージカルのような作品”と語るように、すべての曲が 登場人物の個性や感情に寄り添うように使用され、時には音楽がセリフの代わりに登場人物の心の声を伝える。ミュージカルを超えたプレイリスト・ムービーの誕生です!

あらすじ


傷ついた今日も、癒えない痛みも、愛の波が洗い流すー
高校生タイラーは、成績優秀なレスリング部のエリート選手、美しい恋人アレクシスもいる。厳格な父親ロナルドとの間に距離を感じながらも、恵まれた家庭に育ち、何不自由のない生活を送っていた。そんなある日、不運にも肩の負傷が発覚し、医師から選手生命の危機を告げられる。そして追い打ちをかけるかのように、 恋人の妊娠が判明。徐々に狂い始めた人生の歯車に翻弄され、自分を見失っていく。そしてある夜、タイラーと家族の運命を変える決定的な悲劇が起こる。 一年後、心を閉ざして過ごす妹エミリーの前に、すべての事情を知りつつ好意を寄せるルークが現れる。ルークの不器用な優しさに触れ、次第に心を開くエミリー。やがて二人は恋に落ちるが、ルークも同じように心に大きな傷を抱えていた。そして二人はお互いの未来のためにある行動に出る…。

男と女の映画レビュー


Q1.作品を観る前に思い描いていた本作のイメージを教えて。


男/曲が登場人物の心情と合わさる青春ラブストーリーというイメージ。

女/「とにかく音楽が最高!」っていう情報ばかり入ってきて、60~80年代くらいまでの洋楽が好きな私でも楽しめるか不安でした。でも、A24が制作しているならきっと面白い! と思ってました。


Q2.世界中の音楽ファンが注目する新進気鋭のスタジオA24が制作した作品だけど、過去作を観たことはあった?


男/「ROOM」と「レディ・バード」を観ました。友人に「ROOM」を勧めて、後日感想を聞いたら、感動で号泣したらしいです。

女/「ムーンライト」や「レディ・バード」、「パーティで女の子に話しかけるには」など観ました。一番好きなのは「20センチュリー・ウーマン」です。すべてA24が制作したというのは後から知ったんですが……。


Q3.「WAVES/ウェイブス」では、音楽と鮮やかなカラーがとても印象的だけど、あなたにはどう映った?


男/どの映画でも音楽が雰囲気を作り出す感じがするけど、それとは違って、歌詞が入っているものがほとんどなので、曲のテンションにすごく引き込まれる印象が強かったです。

女/会話劇の映画が好きでよく観るのですが、この作品はセリフが少ない代わりに登場人物たちの心情を表すように音楽とカラーが効果的に使われているな、と思いました。いつも観ている映画とはまったく違ったのでとても新鮮な気持ちで、ストーリーの展開で変わっていく音楽とカラーによってググッと物語に引き込まれていきました。


Q4.お気に入りのシーンと音楽を教えて!


男/シーン:妹エミリーと釣りに来た厳格な父ロナウドが涙しながら自分を責めているシーン。一家の柱で強い部分しかみせなかったロナウドがエミリーに初めて見せる表情がなんとも言えなかったです。
音楽:タイラーが肩のMRIをとっている時に流れたA$AP Rockyの「LVL」。このビートが絶望の始まりを表してるようでした。

女/後半の妹エミリーのシーンはすべて好きで、感情移入しながら観てました。恋人ルークと出会って徐々に心を開いていく過程もいいのですが、お気に入りをひとつ挙げるとしたら父ロナウドとの釣りをするシーン。それまでなにか思っていてもじっと自分の心の中に閉じ込めていたものを、少しだけでも言葉にして吐き出せたエミリーのことを考えると胸が締め付けられるほど愛しく感じました。
お気に入りの音楽は映画の最後に流れるアラバマ・シェイクスの『Sound & Color』。歌詞を読みながらエミリーがこれから歩んでいく未来を考えると希望で溢れているように思えました。でもその反面、タイラーが今置かれている状況にも当てはまるのかなとも思えて、この作品を観終わった後に聴くと両極端なことを歌っている複雑な曲に感じました。
あと、音楽とカラーが印象的に使われていたこの映画の世界観にもぴったりです。まさに音と色がいい意味でこびりつくように残っています。


Q5.主人公のタイラーとエミリー、正反対の2人がそれぞれに歩む人生は、あなたにはどう見えた?


男/タイラーの過ちから後半のエミリーにつながると思うと、辛いことを乗り越えて人生を進まないといけない。でも進んでいけるように見えました。

女/正直、タイラーが苦手です。若さゆえ、という言葉では済まされない言動が恐ろしかった。ただ、期待に応えていかなければいけないというのはしんどいよね…と思いながら、抑圧された環境の中におかれているという部分には少し同情はしました。でも、とは言え…! っていう気持ちが強いです。
エミリーはタイラーと正反対の人生を歩んでますが、タイラーのこともあってエミリーも抑圧された環境の中で生きているというところは同じ。でもそれが少しずつ解放されていって未来に希望を見つけ始めたことに、ただただ素直にエミリー良かったね…と思いました。


Q6.この映画にあなたなりのキャッチコピーをつけるなら?


男/「家族はまた繋がる」

女/「それでも、人を愛しいと思った」
「愛しい」ってプラスな感情もあれば、マイナスな感情も意味する実は深い言葉で、なにがあっても人との繋がりを握って離そうとしなかったり、希望を見出そうとしたりしている彼らにはこの言葉が合うのかなと思いました。あと、私自身のこの作品への感想もこの一言につきます。

そして、3人目(男)のレビュー


音楽とストーリーが織りなすWAVESの世界観


今回の男女のレビュー。両者は共通して、作中で引き込まれる感覚を覚えたと語っていた。音楽とストーリー、そして鮮やかなカラーが映し出すWAVEの世界観。その3つの要素が重なり合うことで生まれるスクリーンの一体感に、筆者も完全に引き込まれてしまった。いまも走馬灯のように思い出される感覚は、他の映画では感じたことのないものだ。大音量で流れる名曲たちがシーンにバチッとハマった瞬間、一気に鳥肌が立って、登場人物の心情が胸に直接語りかけてくるような印象を受けた。ストーリーの内容は、重くズシンと心にのしかかるようなヘビーな印象を受けるが、深い傷を負った若者たちが少しずつ前へと進んでいく姿に、「どんなことがあっても前を向いて進んでいくべきだし、そうしたらきっと光が見えるはずだ」というメッセージが込められているのを強く感じた。そして、「人は一人では生きていけない、互い歩み寄り助け合うことで困難な状況を乗り越えていかなければならない」ということをあらためて気付かされ、今の世界情勢とも重なり合う部分を強く感じた。そして、身近な人をより大切にすること。当たり前だけどなかなかできないその姿勢を、この映画から学ぶことできるのではないだろうか。劇場で鑑賞する際は、ぜひ友達、恋人、家族などを誘って観に行ってほしい。鑑賞後、大切な人を愛する気持ちが強くなっているはずだ。

<物語を彩る豪華 31 曲のプレイリスト>
「FLORIDADA」「LOCH RAVEN (LIVE)」「BLUISH」アニマル・コレクティヴ/「BE ABOVE IT」 「BE ABOVE IT -EROL ALKAN REWORK」「BE ABOVE IT – LIVE」テーム・インパラ」/MITSUBISHI SONY」「SIDEWAYS」 「FLORIDA」「RUSHES」「RUSHES (BASS GUITAR LAYER)」「SEIGFRIED」フランク・オーシャン/「WHAT A DIFFERENCE A DAY MAKES」ダイナ・ワシントン/「La Linda Luna」 ケルヴィン・ハリソン・Jr/「LVL」 エイサップ・ロッキー/「AMERICA」 ザ・シューズ/「BACKSEAT FREESTYLE」ケンドリック・ラマー/「IFHY」 タイラー・ザ・クリエイター feat. ファレル・ウィリアムス/「FOCUS」 H.E.R./「LOVE IS A LOSING GAME」 エイミー・ワインハウス/「SURF SOLAR」 ファック・ボタンズ/「U RITE」「U-RITE (LOUIS FUTON REMIX)」 THEY./「I AM A GOD」 カニエ・ウェスト/「GHOST!」 キッド・カディ/「MOONLIGHT SERENADE」 グレン・ミラー・オーケストラ/「THE STARS IN HIS HEAD(DARK LIGHTS REMIX)」 コリン・ステットソン/「HOW GREAT」 チャンス・ザ・ラッパー/「PRETTY LITTLE BIRDS」 SZA feat. アイザイア・ラシャド/「TRUE LOVE WAITS」 レディオヘッド/「SOUND & COLOR」 アラバマ・シェイクス





【作品情報】
タイトル:WAVES
公開:大ヒット公開中
監督:トレイ・エドワード・シュルツ(「イット・カムズ・アット・ナイト」)
出演:ケルヴィン・ハリソン・Jr、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミーほか
配給:ファントム・フィルム
オフィシャルサイト:https://www.phantom-film.com/waves-movie/
©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.


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